5-27 狂いだした歯車
「まさか、こんな、」
想像もしていなかった事態に、指先が震えていた。こんなこと、あり得ない。あるはずがないと混乱する。そして、もうひとつの人形になぜか視線がいく。
邪悪な気配を発し、人形がゆらりと立ち上がる。あるはずのものがまだない、その空虚な瞳の奥の闇が、きらりと光った気がした。
「どう、して」
聞こえてくるその声は、確かに十人の少女たちの声だった。頭の中に直接響くその声に、どうにかなりそうだった。覚めるはずのない夢が終わり、現実という残酷なセカイが広がる。
人形は一歩一歩近付いて来る。その不気味さは
あれは、まさか、あの第四公子の仕業だろうか。
『返して帰してかえして』
失った身体を、自分たちの帰る場所を、もう戻らない時間を。
立ち上がる気力もない
その先にいたのは、良く知る者たちだった。
「姉上····もう、止めてください」
強い口調で
当たり前だ。
自分がしたことは、決して赦されないだろう。この手はもはや血がこびり付いて、いくら洗っても拭えない。
「
その横で
理由?
そんなもの、ない。
ただ、したいことをしただけ。完璧な人形を作るという、欲望を叶えたかっただけ。それのなにが悪いのか。
「ふたりとも、それも大事だが、今はあの幽鬼をなんとかしないと!」
「陰の気が異様なくらい溢れてる。なんでこんなことにっ」
それは、宝玉が砕け散ったからだろう。今まで浄化されていたはずの穢れや陰の気が少しずつ放出され、この地に影響を及ぼしているのだ。
そんなことを知らない
「とにかく、
「恩に着る」
「ありがと、
そこに
弄ばれたその身体の繋ぎ目に、
(母上、私は、)
母である宗主が自分に言った言葉が頭を過った。
「あなただけでも、どうにかしてここから出す方法を考えるわ。もし、ここを出ることができたら、」
その続きが、頭から離れない。
「あなたが、
強い口調は、この声音は、鎖のように
「
「わ、わかった!」
先程の一撃で怯んだが、額を貫いた矢が刺さったまま、幽鬼はまだそこに立っていた。
それどころか、その刺さっていた矢を握り締め、引き抜いて投げ捨ててしまった。霊気でできたその矢は地面に刺さり、そのまま消失する。
踏み込んだ足で勢いをつけ、そのまま幽鬼の方へ飛び込み、一度防御した腕を弾く。
そこから間髪入れずに心臓があるだろう場所に向かって、その切っ先を突き出して串刺しにすると、思い切り横に薙いだ。
幽鬼の身体は部屋の奥へと飛ばされ、そのまま壁に背中を打ちつけ、ずるずると床に滑り落ちるように座り込む。
動かなくなったのを確認し、
「姉上、どうか、無駄な抵抗はしないでください」
どうしてこんなことになってしまったのか。
自分のせいかもしれない、と心のどこかで思う出来事があった。ずっと、子供の頃の、こと。
気にしないで、と
しかし
自分のせいで武芸の道を閉ざされた姉と、のうのうと武芸を学び、
「姉上、すべてを語ってくれますね?」
その口から語られる言葉を、恐れていた。
聞きたくない気持ちと、聞かなければならない使命感と。
その繰り返される葛藤が、彼女の表情を余計に曇らせるのだった。
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