5-26 邪曲が響く時
白い光が止み、耳を劈いた衝撃音から解放された時、
何の予告もなく、とんでもない陣を展開させた
白虎の姿の
「あやつ、なんてことを!」
「あやつの魂は、
うん、と
「あやつ、逆の重力を己にかけて、
「姐さん、俺を降ろしてくれる?」
俯いたまま
支えを失ったように、ふらりと傾いだ身体を受け止める。辛うじて立っていた
「
小さく囁くように呟かれた言葉に、唇を噛み締める。そこで
相変わらず笑みを湛え、口許は微笑を浮かべている。けれども、左眼からつたい続ける涙は、止まることはなかった。
(····俺の大事なひとたちを、よくも傷付けてくれたな、)
赦せるわけがない。
口許に運んだ横笛に、息を吹き込む。その音は、邪悪な音色を奏でて空間に響き渡った。
人間を傷付けない、という約束を。
(いや、もはや、あれはひとではないだろう)
人という姿をした、邪鬼だ。
なら、約束を破ったことにはならない。
ふっと口許を歪め、
それは、
ゆらりと
冷たい自分の身体では、
「お願いだから、目を開けて?」
震えた声は小さく、どこまでも悲痛だった。
(····まったく成長していないようじゃな。無理もないが、)
あの日から、一体、何百年経っただろう。
邪神に貫かれた
それが急に明るさを取り戻したのは、その傍らにいた少年のお陰だろう。しかし、その少年も青年になり、数十年経った後、
十五年前。
(このふたりにとっての
自分たち四神とはまた違う、深く強い絆で結ばれている。
「····ごめん、ね、」
目を覚ました
たくさん傷付けてしまった自分を、悔やむ。解っていたのに、結局、ふたりを傷付けた。
「
「····ここに、いるよ」
「怖かっ、た」
そ、と力のはいらない指先を伸ばす。それは
「もう、だいじょうぶ、だよ」
優しく微笑んだ
月に似た金色の瞳がふたつ、そこに在った。
それはどこまでも澄んでいて、彼がどれだけ純粋な感情を自分に向けてくれているのかと、思い知らされる。
「
たくさん傷付けてしまったから、ごめんなさいと、それから、ありがとうを。
ゆっくりと瞼を閉じ、そしてその翡翠の瞳を開くと、再び深い闇空に向けた。まだ、すべてが終わったわけでない。
立ち上がらないと。
終わりを、見届けないと。
それがどんな結末であっても――――――。
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