5-22 生まれてきた意味
幼い頃の記憶がない
十五年という長い時間、共に生きて来たふたりこそが、
それなのに。
「邪神、
「····今更、消え逝く者が知ったところで、どうなるものでもない、か」
「そういう意味ではない。この子の存在を知れば、あなたがどうなるか解らなかった。あなたは、それを望んでいなかったから」
始まりの
自分の知らぬ間に、蝕んでいくその邪神の意識は、目の前の
闇の化身である四天の存在が、さらに
「ひとつ、聞いてもいいかな?」
ふたりの会話を黙って聞いていた
「私と
「違うでしょう? 自分が生み出した子を、手放さなくてはならなかった本当の理由は、そんな単純なものではなかったはず」
強い眼差しで、自分よりもずっと強大な相手に臆することなく訊ねる。
その言葉に嘆息し、俯いた始まりの
そこにあった顔は、自分たちの傍にいる
「
「うん、正直、····私も驚いてる」
髪の色と長さ以外すべて、鏡を見ているように同じだった。始まりの
しかもそれは、結果的に自分自身が生んだ闇や穢れを鎮めている。邪神が始まりの
「守るために手放すしかなかった。数年は隠しておけたが、それ以上は難しいと確信した。記憶を消し、
小さく笑うその表情は、
「でも、やはり正解だった。君はその子を見捨てずに、立派に育ててくれた」
こちらにゆっくりと歩いて来る始まりの
「これを、君に託したい」
袖から取り出したそれは、立派な横笛だった。それを
「これは、私の
見上げてくるその瞳は、翡翠。お互いの冷たい手を重ねて、その間に横笛があった。放したくない。そんな気持ちが言葉はなくてもそこにあった。
「だから、君に託す。
「····俺、は、」
生まれ出たあとの数年間、失っていた記憶が波のように押し寄せる。
頬をつたう涙が、その意味を語っていた。
記憶の中で、笛の音が鳴り響く。自分のために奏でられたたくさんの曲。
それは、かけがえのない優しい音となって、いつまでも
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