5-14 奉納祭の夜の出来事
その話は他の一族たちの耳に入ることはなかった。
そんなことが起きていたとは知りもしない
時折、本邸の従者たちとすれ違ったが、その度に丁寧に挨拶をする
彼女の行く先を知っている、長く
向かう先は、
本邸はとても広く、知らない者はもちろん、来て間もない従者は必ず迷う。それくらい部屋の数も多く、入り組んだ廊下やわざと迷わせるための工夫がされてある。同じような通路がいくつもあって、そのどれかは行き止まりだったりするのだ。
宗主や夫人の部屋に関しては、お付きの従者しか解らないようになっている。
公子たちでさえも、ひとりで訪れることはない。呼ばれるか、予め約束をして、従者に案内してもらうのが規則となっている。
公子たちの部屋はそこまでは複雑ではないため、何度か訪れていれば迷うことはない。
「
部屋の前で声をかける。少しして、奥の方から足音が近付いて来るのが解った。扉の前でその音は止まり、「
「はい。手作りの菓子を持ってきました。よかったら一緒にどうですか?」
ゆっくりと開かれた扉に先に、いつもの笑みがあった。
「わざわざすみません、せっかく来てくれたのに。今日は少し疲れてしまって········ご一緒したい気持ちはあるのですが、」
「いえ、
手に持っていた小さな重箱を渡し、残念そうに
「お礼はすぐにはできませんが、日を改めて
「いいえ、良いのです。
ふたりは何度もそんなことを繰り返し、
本邸を後にし、灯の少ない路を歩く。
本邸を離れてから、誰かにつけられているような気配があった。
「
振り返った先、闇夜に溶けるように
「あなた、知ってる」
「
にっこりと笑みを浮かべ、間髪入れずに答える。声を聞く限り男のようだが、話し方は女性のようだった。
「前に
自分の口元に人差し指を当てて、くすりと音を立てて笑う。
「そんなあなたでも、役に立てることがあるって言ったら、あなた、どうする?」
一歩。また一歩。ゆっくりと近付いて来る。
確かに、
「無駄よ。あなたの宝具は、私には効かないわ。それが効くのは人間と妖者だけ」
「ならば、あなたはなんです? 人でも妖者でもない。神だとでも?」
気付けば漆黒の衣を纏った怪しい男は、すぐ目の前まで来ていた。見上げてみてもその顔はまったく見えない。赤紫色に彩られた口元だけが笑っているのが解る。
「神ねぇ。あなたの言う神って、あれでしょう? 救う方の神。全能の神。馬鹿ね。そんなもの、この世にいるわけないじゃない」
「ここにいるのは、残酷な闇の化身だけよ、」
翳された大きな手は
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