5-11 迫りくる影
その一部始終を目の前で見ていた
声を出さず、物音を立てず、何が起こっても決して何もしてはいけない。
(……必ず、助けに戻ります!)
扉の向こう側へと消えてしまったふたりを確認し、
符の効果がいつ切れてもおかしくない。
今は誰にもその姿が見えていないようだが、
しかし、警護の術士たちは
(
祈るように、白い守り刀を胸元に貼られた符ごと握りしめる。言われた通りに門の方へは行かず、低い塀を見つけてよじ登り、何とか邸を脱出できた。
月明かりが照らす広い路を駆ける。宿まであと少しという所で、
(あ、あれは、……なんです?)
遠目でしか確認できないが、明らかに不審な影であった。後ろに下がろうにも前に進もうにも躊躇ってしまう。
歩いていたその人影が、
そこには、優越感に浸るようなうっとりとした漆黒の目があり、にたぁと口元が大きく歪められた。開いた口には尖った牙があり、明らかに
あまりの恐ろしい雰囲気に、足が竦んで身動きが取れなくなる。ただ直立不動に立ち尽くす
その人影は、人ではなく、邪悪な顔をした妖鬼だった。黒い衣はぼろぼろで、袖の裾など所々切れてしまっている。やせ細ったその鬼は、整っていない不揃いな黒髪を背中に垂らしたまま、一歩、また一歩と動けない
握りしめすぎて白くなった指先は強張ってしまい、守り刀が砕けてしまうんじゃないかと不安になる。この小刀の形をした守り刀には本物の刃はなく、あくまでも模造の刃であった。どんな効力があるかは
(
目を閉じることもできない。その姿が焼き付いて離れない。ゆっくりと余裕の足取りで歩いていたその妖鬼は、もう数歩前まで迫っていた。
手が伸ばされる。細く乾いたその肌は、まるで精気の抜けた死人のようだった。
「そんなに怯えて、可哀想だなぁ。人の子は弱いからなぁ」
にたにたと笑いながら、その妖鬼は言う。ねちねちとした言い回しが、特徴的だった。青白い顔は病気にでも罹っているようで、そこまで思考を巡らせて、
(ま、まさか、
長い前髪から覗くその漆黒の眼は、月明かりの中でもはっきりと解る。頬に伸ばされた細い指が触れようとしたその瞬間、白く眩い光が
それには
光によって弾かれ飛ばされた
「な、なんだぁ。あの、光はぁ?」
「まさか本当に現れるとは、」
少し低めの少女の声は、忌々しいものを蔑むように発せられた。すべての元凶であり、憎むべき存在。弓を構え、三本の矢の先を向ける。
「その守り刀、すごい威力だったな。大丈夫か、
「は、はい! でも、なんで····、」
目の前に現れた、背を向けたままのもうひとりの主に疑問を投げかける。その問いには、
「こうなるだろうことを、
すべては、繋がっていた。
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