5-9 笑顔の仮面
邸の中を
そんな
(
一瞬おかしくなった時もあったが、それ以外はずっとまともだったのだ。それがどうだろう、ここに来てからというもの、
(いや、いいんです! そういう
けれども、この状態はあまりにも目の前にいる方に迷惑だろうと、そろりと視線を巡らせる。
だがしかし、どういうわけか、前を歩くお嬢さまは楽し気で、それすらも楽しんでいるように見えた。
(あの
印象の良い
先程など庭に降り、
「綺麗なお姉さん、これをあげる!」
「あらあら、蕾が可愛らしいですわね。
と、笑顔で対応していた。
武器を手にした彼女らは、
しかし、どこか違和感を
それがなんなのかは解らないままだったが、そんなことをしている内に、部屋の前で立ち止まる。
そこは客間ではなく、
「さあ、どうぞお入りください」
その部屋は女性らしい小物や棚が並べられており、通された部屋だけでもだいぶ広かったが、奥にもう一つ部屋がある間取りになっていた。
もう一つの部屋は固く扉が閉ざされていたが、それを問う勇気は
そもそも、自分が口を開いて良いかすらわからない。とにかく粗相がないように、後ろを付いて行くしかなかったのだ。
部屋にはすでに二人分の夕餉が用意されていた。
「
お香の甘い香りがずっとしている部屋で、
扉が完全に締まり、足音が聞こえなくなった頃、
「
「へ? どういうことですか?」
なんでこんなことをしているんだろう?と首を傾げるが、
「とりあえず、この御膳は全部食べて。大事な時にお腹が空いていたら大変だから」
「は、はい。でもなぜ急に普通の
普通、と自分で言っていて不思議だったが、言い得て妙だった。これが、普段の
ならば、さっきまでの
とりあえず、
一つ一つの皿は小さいが、そのすべてが違う料理だった。しかもどれも味が良く、さっぱりしているのに満足感がある。
「初めて食べる料理もあって、勉強になります」
「俺は
「で、話の続きだけど、これ、持ってて」
懐から黄色い符を取り出し、
「え? え? ちょっと、なにをっ!?」
もぞもぞと手を入れられたかと思えば、すっと離れて、
「いい? これから話すことを、しっかり頭に入れて、この邸から出るんだ。宿の場所はわかる?
「え、だから······どういう?
急にどうしたのかと
別にこそこそと出て行かなくても、堂々と戻ればいいだけだ。やっぱり宿が良いとでも言えば、失礼極まりないがあの方なら許してくれそうなのに。
「行かない。だから、お願い。言った通りに、してくれる?」
途切れ途切れの言葉に、真剣さが伝わって来る。思わず
そして、足音が近づいて来るのを機に、
大切なモノを慈しむような、愛でるような、そんな仮面のような笑みを浮かべて。
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