5-8 痴れ者を演じる理由
「失礼を承知でお尋ねします。どうしてこのふたりは良いのですか?
あらあら、と
「ええ、ですから、ある意味安全なのです。失礼ですが、そこの
有無を言わせぬその口調は、やんわりとしているのにどこか強制的だった。
「あははっ!
そんな中、
いたずらっぽく人差し指を口元に当てて、
それに気付いていたのは
(また
久しぶりの痴れ者状態に、目の前の宗主代理と名乗る人当たりの良さそうなお嬢さまの様子を窺う。
にこにことその姿を眺めているようだったので、
「お姉さん、俺、お腹すいちゃった!」
「ふふ。ちょうど夕餉を用意していたので、一緒にいただきましょう」
「ほら、
大きく右手を振って呼ぶ主と
こちらの方がずっとまともな答えが返ってきそうだったからだ。
「
「は、はい! え、なにかって?」
「いいから、とりあえず、黙って行くんだ」
小声で囁く
とりあえず、生返事をして小走りで門の方へと向かった。
「
「········はい、······わかりました」
ふたりの前にやって来て、扉が閉まる音を背中で聞いた。
その眼は、どこかなにかを諦めているような色が浮かび、
この姉妹に一体何があったのか、と。
「では、宿に案内します。私について来て下さい」
息を吐き、なんとか精神を整えると、
明るい月が空を照らす。大きな半月は、薄墨色の空にぼんやりとした明かりを齎していた。
****
その頃地下牢では、宗主の
しかし物理的な攻撃でもびくともしない。術は弾かれると解っているので使用することはない。
「母上、姉様はどうして理由を教えてくれないの? 言えないようなことをしようとしてるの?ねえ、母上、答えてください」
どうしてこんな酷いことをするのか。
刃と黒い柄の境目に銀の装飾が付いていて、そこにそっと触れた。霊槍は本来の力を発揮することができないまま、握られていた手の中で消えた。
十二歳の少女は頭を使うのがとても苦手で、身体を動かしている方がずっと得意だった。術はまだまだ勉強中だが、槍の腕は
「······母上?」
返答がないことに、
「いい? あなただけでも、どうにかしてここから出す方法を考えるわ。もし、ここを出ることができたら、」
(母上······どうして、)
どうして。
なんのために?
信じられない命令に、唇を噛み締める。一体、外で何が行われようとしているのか、それすら解らないというのに。
光の届かないこの場所で、疑心暗鬼になっているだけなのだと、そう思っていたかった。
けれどもそれは祈りでしかなく、真実はもっと残酷なものだった。
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