5-3 竜虎と少女
夕刻まであと
二手に分かれたのは都の状況を見て回るためだけではなく、
低い建物が多い中、数少ない大きな建物であったが、後ろに広がる竹林の竹はそれ以上に背が高く、ここから見上げると、宿の屋根の上に緑の葉が生えているように見える。
「すみません、だれかいらっしゃいますか~」
「旅の者なのですが、少しでかまわないので、お話をお聞きしたいのですが~」
少し間をおいて、奥の方から足音が聞こえてきた。扉は開くことはなかったが、隔てた先で「旅のお方でしたか、このままでよろしければ、」と中年の上品な口調の女性の声が返ってきた。
「私たちは
こういう状況なので、やんわりとした口調の
「せっかく
「ありがとうございます。途中立ち寄った
「······いいえ。正しくは、もっとずっと前です。確かに都がこのような状態になってしまったのは数日前ですが、始まりは十数日前。半月経たないくらいでしょうか。最初は誰もそれが疫病だなんて思ってもいませんでした」
女将らしき女性は嘆息し、疲れた声で話し出す。
彼女の話を聞いていくつか解ったことがある。
ひとつは、都がこんな風に廃都のようになってしまったのは、
十数日前、最初にその症状を発症させたのは、とある商家の夫婦であること。
都中に広まっている疫病だが、全員が罹っているわけではなく、女将のように無事な者もいるそうだ。
そしてそれとは別に、ひと月半ほど前から、もうひとつ不可解なことが起きていたことも。
女将から話を聞き終わったふたりは、
「この先の道を曲がって、そのさらに先を左に、いや右か······、」
目線を下に向けたまま、塀に沿って歩いていた
「うわぁっ!?」
「——————っ」
どん、と額同士がぶつかり、その衝撃でお互いが地面に尻をついて倒れた。
「
後ろを歩いていた
なので、視界を戻した時には二人が路の角で、尻もちをついて座り込んでいる姿が飛び込んできたのだ。
「す、すまない、考え事をしていて······不注意だった。平気か?」
額を涙目で抑え、反対側にいる少女が途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「い、いや俺の方こそ。そちらも大丈夫ですか?」
相手に訊ねながら、同じく額をさする。痛い。ものすごく、痛い。
視界が戻って来た
その少女は、薄茶色の髪の毛の横のひと房をそれぞれ編み込んでいて、後ろで残りの髪の毛と一緒にひとつに纏めており、紫色の小さな花がふたつ付いた簪を付けていた。
月のように冴え冴えとした灰色の瞳と目が合う。
右目の下に小さな
両耳に小さな銀の輪の耳飾りをしており、薄桃色の紅が映える。首から下げた琥珀の玉飾りが、紺青色の衣裳に浮いて見えた。
「君は確か······、」
少女もまた、
「はい、
慌てることなく冷静に態勢を整え、跪いたままの格好で腕を囲い、揖する。
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