4-15 誓いの夜
真っ暗になった視界が、ふいに元の薄暗い部屋へと戻って来ると同時に、灰色がかった青い瞳が重なる。
状態をよく見れば、
両の膝と左手を付き、跨るような格好で見下ろしてくる
一瞬でよく憶えていないが、胸元を掴んでいた指を解かれたかと思ったら、そのまま身体を翻した
頭に手を添えてくれている優しさとは逆に、その顔はどこか苦しげだった。あのいつもの無表情からは想像できないほど、悲しそうだった。
「······すまない、私は、君に、かつての
「······
とても大切にしていたのだろうということは解る。けれども明確な答えは聞いてはいなかった。
「一生共にいようと誓った、伴侶だった」
そ、と
「俺は······
何度も聞いてしまう自分の弱さが、
この感情は、痛みは、きっと。
目の前にいるひとは、とても大切なひとで、離れがたいひとなのだと。
「私は、君と、共にいたい」
言って、
「俺も、······俺も、
これからなにが起こるのかもわからない。もしかしたら、かつての
また、悲しませてしまうかも。それでも傍にいたら、きっと、なにかが見えてくる気がした。
記憶は少しもないけれど、この気持ちは間違いなく、自分のものだ。
両腕を伸ばして、
あたたかくて、心地好い。
(こうしてると、なんだか落ち着く)
そう、思えたのだ。この心境の変化がなんなのか、解らない。自分の気持ちを受け入れたからだろうか。
(俺は、たぶん、
首にしがみついて半分起こした身体を、腰に左手を添えて
括っていた赤い髪紐に右手の指が絡められ、器用に解かれていく。途端、支えを失った長い髪が、するりと薄闇の中に広がって溶けていった。
雨音は一層激しく降り注ぐ。それでも部屋の中はどこよりも静寂に満ちている気がした。
「君が、好きだ」
囁くように耳元で告げられた言葉。
首に絡めていた腕を思わず解くと、困ったように微笑を浮かべた
つられるように
伝えたい。ただ、思いのままに。
この気持ちは、自分のモノだ。疑う必要はない。
この想いはホンモノ、だから。
「うん、······俺も、
右手が頬を包むように触れてくる。
その手に、何度も救われた。
(
同じように頬に手を伸ばして、そっと遠慮がちに触れると、
近づいてくる灰色がかった青い瞳に吸い込まれるかのように、
****
しばらく経った後、
ぼんやりとふたり、開け放たれたままの庭の方を眺めていた。
遠い昔、
さすがに建物は何度も新しく改装されているので、あの時と全く同じというわけではない。
今生の両親が亡くなり、宗主の養子になって数年後、遥か昔に三人での最期の穏やかな時間を過ごしたこの部屋を、自室として与えてもらったのだ。
気休めだった。
けれども。
(君は、また、同じことを言うんだな、)
紫陽花が好きだと。
気付けば、雨音の中に小さな寝息が混ざっていた。愛しいものを守るように、確認するように、
穏やかに眠る
「二度と、君をひとりにさせない。その手を離さない。絶対に、守り抜く」
その強い意思を言霊にして、
あの日、果たせなかった誓いを、今度こそ――――――。
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