4-9 触れたい
歩く度に揺れる一本に括った長い髪の毛が目に入る。結ばれた赤い髪紐。
ふと、腰に差している横笛に視線を落とす。その先に飾られた赤い紐飾り。あの時、鬼蜘蛛の繭の中で思わず掴んでしまった手首のこと。
(
終わりの日に、始まりの
目印はすぐそこにあったのに、
それにあの時、
三年前。初めて
だから、あの日、
触れたい。
愛おしい。
触れてはいけない。
触れたい。
それからは自分の感情を抑えるのが難しくなった。
「
背後に気配を感じて
今の状況は正直、冷静さを保てそうにない。
その距離はとても近く、
「えっと、こっちの本棚にはないみたい、だから」
「うん、」
「あっちの方に、行きたい、んだけど?」
「うん、」
うん、と低い声で応えているのに、
一体どうしたのだろうと問いたいが、心臓の音が外に聞こえそうなくらい煩かった。頬に息がかかるくらいの、触れそうで触れない微妙な距離感に頭の中が混乱して、どうにかなりそうだった。
「もう少しだけ、このままで、」
耳元で囁かれた声は、少し掠れているせいか艶っぽくてぞくりとした。俯いたままいつもの調子がでず、されるがまま、
(やってしまった······)
後悔先に立たずとはまさにこの事だろう。
(私は、今、なにをしようとした?)
というか、寧ろ、してしまった、というのが正解だろう。
触れたい。
抱きしめたい。
そんな衝動をなんとか抑え込み、しかしその寸前まで及んでいた事に自分でも驚きを隠せない。
(抑えるのが難しくなってきた。気を付けないと、自分でもなにをしでかすか解らない)
結局、日誌は見つからず、ふたりは心の中で喧しいくらい自問自答を繰り返していたが、無言のまま肩を並べて蔵書閣を後にした。
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