3-29 光の雨
その大男の姿を見て、何を思ったのか、にやりと
「おっと、手が滑った」
完全なる棒読みで、
それには、
なぜなら、
大男の身体がその強い衝撃でがくんと前のめりに傾ぎ、そのまま顔面から勢いよく倒れ込んでしまった。
「え、嘘、」
「あの大斧と同じくらいの重さってこと?」
「う、うーん······なの、かな?」
大男はそのまま気を失ってしまい、ぴくりとも動かなかった。
やれやれと地面にめり込んでいる大扇を、普通の扇を持ち上げるかの如く軽々と手に取ると、
「さて、と。
は、はい! と三人は慌てて言われた通りに動く。
崖の端に、ふたつの影が並んでいた。同時に、明け始めた空の色を確認する。夜明けが近い。
「自己紹介くらいはしてくれてもいいのでは?」
見上げたまま、
ふたつの影はひとつは背が低く、もうひとつは低い影の頭三つ分くらいは高く見えた。
「なんで俺たちが、あんたなんかに名乗らなきゃならないわけ?」
しかし、律儀に背の低い方が応える。少年のような声音だった。
「まあまあ、そうカリカリしないで。私たちは、あれです。ほら、よく言う、名乗るほどの者ではありませんってやつです、」
もうひとつの影は、穏やかに言い回しているが、結局のところ、言っていることは少年と何ら変わらない。
「目的は穢れで宝玉を壊すこと? それとも別の大きな謀でもあるのかな?」
「そんなこと、教える義理はないでしょう?」
にこやかに答えるその声はどこまでも読めない。
そんな問答を繰り返していたその時、この
「あ、れは? なんだ?」
最後の媒介を無効化し、赤い陣が消えた後、
「······玄武の陣、まさか、そんなこと、」
(
あの時、この事態になる前に、
「
まるで、
(いや······しかし、それ以外の答えはない)
降り注ぐその聖なる光の雨が、この地の穢れを一掃していく。妖者たちはばたばたと倒れ、黒い霧となって消え失せる。
眩しい光が、渓谷を照らし始める。やっと夜が明けたのだ。
****
「やれやれ、やっと目覚めたようですよ。私たちもさっさと退散しましょう」
「なあ、あいつ、あのまま置いてくの? あんたの知り合いでしょ、」
「え、あなたの知り合いでしょう?」
ふたりは崖の下で伸びている大男を見下ろし、それから顔を見合わせる。
「さあ、帰りましょう!」
「だな。あー、無駄に疲れた」
「あなたはなにもしてないでしょう、」
まったくと肩を竦めて、黒衣の青年はふふっと笑った。少年はぐっと伸びをして、背を向ける。目的は達した。
どうやら玄武の契約は成功したようだ。これ以上ここにいても意味はない。
「次は白虎ですかね、それとも青龍?」
「どっちでもいいや。監視は烏にでも任せる。俺たちは報告するだけ」
ですね、と青年も背を向けた。そしてふたつの影は、ようやく顔を出した太陽に溶けるように消えてしまった。
そして同時に、
しかし、その
そう、一部の者たち以外には。
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