1-20 四神奉納舞
その低く落ち着いた声の主は、
「
辺りが急にしん、と静まる。挨拶をし、
「その方も公子のひとりとお見受けします。話を聞く限り、
「お、お言葉ですが、この子にはそんな技術も能力もありません。ましてや貴重な四神の宝玉を浄化するなど、あり得ないことです」
慌てて
「では、これをどう治めるんだ? 奉納祭を中断するなど、聞いたことがないぞ」
反対側に座る
「ではこうしてはいかがだろう? 公子殿の言う通り代理として舞い、もし失敗するようならば、罰を与えては?」
「それはいいな。能がないのにしゃしゃり出て、場を乱したのだから、それ相応の罰を与えるのが妥当だろう。この奉納祭が前代未聞の延期となれば、
口の端を釣り上げ皮肉そうに笑って、
そんな中、同じようにすっと静かに手を挙げる者がいた。
「······その仮面を付けたまま舞うのですか? 顔を隠して舞を舞うなど、神聖な四神に失礼かと」
その低いがよく通る声の主に、大扇を広げて隣に座っていた
(
と、その場にいた者たちはほぼ同時に、同じ言葉を心の中で叫ぶ。
「ははっ! こりゃあ面白いものが見れたぞっ」
手を叩いて大笑いをする
「静粛に、」
(お前の思う通りになっていると?)
おかしいとは思っていた。その行動や言動に気を取られて、今の
(······霊力がほとんど感じられない)
何があったのか解らないが、それも関係があるのだろうか。仮面を外させるために、誘導させている。そんな気がしてならない。
「父上、万が一失敗することがあれば、俺はどんな罰でも受けます」
万が一にも失敗することはないだろう。だがそのためには霊力が必要。そう言いたいのだと悟る。しかし、仮面を外せば、その身がどうなるか予想もできない。
「
ずっと黙っていた
「········いいだろう。やってみるといい」
すっと立ち上がり、前へ出る。
歩を進めて舞台の上に立つ
薄っすらと光を帯びた後、仮面は上から下にひび割れ、そのまま真っ二つになって落ちた。静寂の中に、カランという音だけが響く。
そこに現れたのは、噂のような醜い顔でも、痣でもなく、呪いでもなかった。
「なんと······、美しい」
誰が言ったのか。思わず声が出たのか。大勢の前で晒されたその顔は、誰もがその言葉の通りだと大きく頷く。
年齢よりは幼さの残る童顔だが、色白で美しく整った顔は
危惧していたようなことは起きなかった。宗主は頷き、
軽やかに立ち上がり、舞台の真ん中へ飛ぶと、笛を取り出し、口元に運ぶ。
とんとんと後ろで交差させた右足のつま先を鳴らし、それを合図に澄んだ音色が奏でられた。
それはいつものでたらめな調子の音でもなければ、適当な音程でもない、優しくも儚い笛の音だった。舞を舞いながら笛を吹き、舞台の上をくるくると回る。
音が鳴り響いた瞬間から、誰もが言葉を失った。そして目が離せなくなる。
派手さはないが華やかで、しなやか。美しい笛の音と、そこから溢れる霊力に、東西南北に置かれた宝玉が光を湛えて反応する。
あっという間に
その瞬間、四色の光の柱が邸の天井に向かって伸びた。
『――――我らが主に、拝礼する』
(······どういう、意味?)
頭の中に響いた声。いくつかの声が重なって聞こえた気がする。
舞台の周りから上がった歓喜の声とは別に、はっきりと聞こえてくる声。
『あなたが来てくださるのを、待っています』
『時を経て、再び契約を交わす時が来たのだ』
『待っておるぞ、
『我らはあなたと共に、』
立ち上がって、光の柱を見回す。声が消えていくのと同時に、光の柱もすぅっと薄れていった。その瞬間、邸の中だというのに、色とりどりの何種類もの花が、天井からひらひらと舞い散っていた。
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