1-17 決意
死には至らず、処置を施してしばらく安静にすれば治るだろうが、それは早くても三、四日はかかるだろう。
「······良かった、楽になったみたい」
「毒が抜ければ楽になる。だが、今日の奉納舞は諦めた方がいい」
道中の会話で、奉納舞を踊るのが自分の母親だと言っていたのを聞いていた。
昨日の夕方に届けられた新しい衣裳は、そのまま綺麗に畳んで置いてあった。つまり、衣裳に仕込まれた毒ではない。
鏡台の前で倒れていたから、間違いないだろう。
違和感はそこにある。
「母上、ゆっくり眠ってて。俺が、なんとかしてみせるから」
頬に触れ、安心させるように笑って見せる。眠っているため返答はないが、こうなることを予測していなかったわけではない。
ただ、あまりにも悪質すぎる。今まで様々な嫌がらせは受けてきたが、これは到底赦されるようなことではない。
(けど、衣裳まで新調させて、奉納祭にあんなに力を入れていた
口元に眼がいった。ずっと違和感があると思っていたが、改めて
そしてふと気付く。こんな派手な紅を
鮮やかな血のように真っ赤な口紅を、躊躇いもなく親指で軽く拭う。
それを自分の口元に運ぼうとした時、やめなさい、と突然手首を握られ止められる。同じことを思ったのか、部屋を物色し、鏡台の上にあった紅を手にした
「思っている通り、これが原因だろう」
うん、と
夕方の記憶を辿る。
箱を開けた時、美しい衣裳と共に添えられた小物入れのような物が確かにあった。
そっと置かれた小さな入れ物を見つめ、決心するようにぐっと握りしめる。
「······公子様、頼みがあるんだけど、」
それがどんな頼みであっても、目の前の青年は頷いてくれるだろうと
「わかった」
と言って、なにも聞かずに
奉納祭まであと
この状況を覆すための鍵は、ひとつだけ。
しかし、四神の宝玉を浄化するための舞は、霊力を使いながら
それを解決するには、仮面を宗主に外してもらう他ない。
しかし、本邸には入れない
ここに本邸の従者が迎えにやって来るのは、奉納祭が始まる直前だ。
普段の
つまり、舞台に上がらない限り、宗主には会えないということだ。
「――――という計画なんだけど、」
短時間で考えに考え抜いたその計画を伝え、理解したと
そして彼が自分の邸に帰った後、
絶対に、赦さない。
母にこんな苦痛を与えた者を。
仮面の奥に、いつもの無邪気さはない。
そして、図らずも幕は上がる――――。
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