1-12 満身創痍の帰還
駆け寄る気力も尽き、
「君は、彼女を」
首を回してその視線の先にいる少女を見やり、そちらを頼むと会釈をした。
胸に貼られた
「怖かったろ? 立てるか?」
ふるふると首をふる妹を責めることはせず、代わりに、ほら、と屈んて背を向ける。
まだ夜は明けておらず、薄暗い。このまま邸に戻り見つかれば、様子がおかしいことがすぐにわかってしまうだろう。
「公子、無理を承知でお願いしたいのですが、」
「問題ない。私が借りている邸へ運ぶといい。元々君たち一族の持ち物だろう、」
最後まで話し終わる前に、淡々と前を歩く
(
挨拶、と言っても動作的な挨拶であって、会話を交わしたことはない。
誰かと話している姿を一度も見たことがなかったため、その声を初めて聞いた気さえする。
少しも動かない
(けど、なんでこんなことになったんだ?)
あの赤い月も今は元の青白い月に戻っていた。全力で広範囲を走り回り、術を使ったせいで
ただいつもの静寂が妙に落ち着かず、胸の辺りに靄のようなものを残したまま、近づいてくる
****
――――あの時。白い陣が現れたあの瞬間、傾いで落ちていく身体をなんとか反転させ、
体感ではゆっくりと流れるようだったが、実際は倍は速かっただろう。近づいていく地面を背に、思わず赤黒い月に手を伸ばしていた。
その手を力強く掴まれ、引き上げられたかと思えば、そのままふわりと抱き上げられ、思わず息が止まりそうになった。地面に降り立って、初めてその者は口を開いた。
「······大丈夫。心配ない。あとはこちらに任せるといい」
優しい声が降り注ぐ。その声は低く、心地が良かった。礼を言おうと声を出そうにも、身体を起こそうにも、まったく力が入らなかった。
(······この声、どこかで、)
懐かしい気分になって、そのまま身を委ねる。しかしその時点で、
あの声は、誰のものだったか。
遠い日の記憶を呼び起こしてみても、なにも思い出せなかった。
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