3-13 好きだよ!
その
赤を基調とした造りの派手な茶屋で、店の名の梅の色を表現しているらしい。所々に梅の花の造花が飾られていて、店内は甘い香りが漂っていた。
部屋に着くなり、
日焼けのひとつもない生白い上半身は、どこもかしこも細くて心配になる。赤い髪紐に手をかけ、括っていた髪の毛を解いて背中を隠すように垂らす。正面を向いたまま、
「その衣をもらっていい?」
店主が用意してくれた衣は、
「··········替えを貰ってくる」
「えーいいよ。着られれば問題なし」
どう見ても女物の衣で、先程下の階で働いていた女人たちと同じ衣のようだった。
仕方なく手渡し、
そしてやはり似合っていた。
「日当たりのいい部屋で良かったね、」
大きめの
「ここのおススメは梅茶と
「······甘いものが好きなのか?」
「うん、好きだよ!」
そういえば
部屋で食べることもできたが、なぜか
「あー。おいしかった。梅茶って初めて。
独特の香りと味だが、嫌いではなかった。茶と言えば
そしてふたりはまったく気付いていないが、周りの客たちが息を呑んでふたりのいる席を見守っていた。それはもちろん、あの第二公子が連れている美しい少女は、一体どこの誰なんだ?という好奇の眼差しである。
いつも通りほぼ
(あの
(一緒にいるのはどこの名家のお嬢様かしら?)
(入って来た時はびしょ濡れだったみたいだけど、一体何があったのかしら!?)
めちゃくちゃ気になる!!
奇跡的に一番近い席に座っていた三人の若い娘たちが、ひそひそと顔を近づけて各々思いを馳せる。決して自分たちが、憧れの公子と婚姻を結べるなど本気で思ってはおらず、しかし妄想するのはタダなのだ。
(ねえ、見たでしょ? あの時羽織っていた衣っ)
(見た見た。あれは間違いなく
(あの身長差が最高なのっ!)
解る!!
三人は眼を輝かせて手を取り合う。公子の連れの上背は公子の肩くらいまでしかなく、頭ひとつ分は差があった。今纏っている衣も、少し大きいのか袖で手が隠れてしまうようだ。
立ち上がり二階に戻っていくふたりの姿を、三人娘はなるべく見ていることを気付かれないように顔を背け、視線だけ向ける。
「
「いつもの氷のような冷たいお顔も素敵だけれど、あんな優しい表情が見られるなんて! 今日はいいことがありそう!」
「でもあの子が最初に着ていた衣、男物だったような気が······」
娘たちは顔を見合わせ、それはそれで······と新たな妄想を始めるのだった。
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