3-6 声の主
宴という名の歓迎会が終わり、別邸に戻ると、疲れていたのか早々に三人は寝床についた。夜も更けた頃、ふと
寝息がふたつ聞こえる中、身体を起こし、何の気なく水浅葱色の薄い衣を羽織って別邸の外に出た。
渡り廊下には屋根があり、下を眺めれば、水の上に浮かんだ美しい白い蓮の花たちが可憐さを感じさせる。欄干に寄りかかって屋根の隙間から見える月を見上げれば、澄んだ星空が一面に広がっていた。
「······呼んでる、の? 俺を······?」
なぜ? と
「どうして、俺を、······俺は、
都に入ってから時折聞こえてくる声があった。優しい青年のような声音。その声を
(奉納舞の後に、聞こえてきた声のひとつ)
待っている、と言っていた。あの声の主が、ずっと頭の中で話しかけてくるのだ。
「眠れないのか?」
後ろから突然かけられた声に、
「······
「怪異を鎮めて戻って来たところだ」
帰って来たばかりだというのに、留守にしていた分の溜まっていた依頼を片付けてきたらしい。少しも衣が汚れていないが、公子自らが出向くとなれば強い怪異だったはず。
「声が聞こえて······ずっと、聞こえてて。でも、俺は応えてあげられないんだ」
横に並んだ
「応えなくともいい」
ひと言、
「君が、応えたくなかったら応えなければいい。応えようと思ったなったらば、応えればいい」
「そうなの? ······そっか、そうだね」
どんな声で、何を言っていたかなど聞かずに、
「ありがとう、
「なにかあればいつでも言ってくれ。話を聞く」
うん、と頷き
ふたりは肩を並べながら、しばらく
『
その声の主はこの地を守護する水の聖獣、玄武。名を
『————どうか、私の許へ』
それは、まるで救いを求めるような、声。けれどもそれに応える資格はないと、
主が己の使命に気付き、再び応えてくれるその時まで。
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