2-27 君の傍にいる
「おかしい······確かにもう一着分、替えの衣があったはずなのに」
「もしかして置いてきちゃったのかな?邸の中は何度も確認して忘れ物はないはずなんだけど、」
「なにか探し物?」
「どうしたの? なにがないの?」
押し退けられた
「
おそらくふたりが探しているのは、奉納舞の後、口紅の毒に侵され、意識を失っている時に掛けてもらった衣のことだろう。結局その後に返しそびれてしまい、
「
「あ、はい、ここに。どうしたんですか、急に」
ふたりの後ろで地面に座り込んだ
「······あった。この衣、公子様に借りてたんだ。俺が直接返してくる」
「え? あ、はい······なぜ?」
混乱して、
(あいつ······またなんかやらかしたのか? 嫌な予感しかしない)
それぞれに疑問符を浮かべている者たちをよそに、
「はい、替えの衣。やっと返せて良かった。俺が着させてあげるね」
「いや、そんなことはさせられない」
いいから、いいから、と
皆が各々の気持ちで見守る中、ひとり楽しそうに
(あいつ······本当になんとも思わずにやってるんだろうな)
(従者でも奥方でもないのに、なんてこと! さすが
(あの
(あんな困り顔、私にはみせたこともないのに······いいものが見れた)
瞼に焼き付けよう、と
「できた! どう? うまく着せられたかな?」
「問題ない」
即答し頷く
「
首を傾げて見上げてくる
「年上だから、
「
ずっと、呼び捨てでかまわないと言っていたのに、
春の暖かな風が強く吹き上げ、長い髪の毛が赤い髪紐と共にふわりと舞い上がった。
まるでたった今、空から舞い降りてきたかのように、羽織っている衣がひらひらと目の前で揺らめく。花びらと葉っぱが舞い上がり、周りの者たちも思わず目を閉じてしまうほどだった。
しかし、
「
それは遠い日の誓いを思い出させた。気が遠くなるくらい昔の、けれども色褪せることのない記憶。
決して語ることのない泡沫の物語。
叶わない願いと思っていた。それでも選択した。何年、何十年、何百年、それでも叶わぬならば、千年でも待ち続け、巡り巡って、いつか再び目覚めたなら。
君を迎えに行こう、と。
たとえ君が、すべてを忘れてしまっていても。それでもかまわない。
「······君が、望んでくれるなら」
全てをかけて守ると、何度でも誓おう。
そのために、永遠の輪廻の禁忌を手にし、君に出逢える日を待っていた。何度も何度も生まれては死に、絶望し、何度も何度も違う人生を生きる。
自ら死ぬことは赦されず、誰かに語ることも赦されず、君のいないセカイで何度も一生を繰り返してきた。
孤独の流転。何にも関わらず、ひとりで死んだように生きる日々。
それでも、光は見失わず、そして今、そのすべてが報われたような気がした。
「君の傍にいる」
包まれている右手の上に左手を重ねて、
もう二度と、失わないように。間違えないように。後悔しないように。
この手を、離さないと誓う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます