2-25 戻ろう
「······消えちゃった?」
本当なら、あの少年を捕まえて、事の次第を知る必要があった。それに、なぜあの少年はわざわざ自分の目的を話したのか。宝玉を狙っていることを口にすれば、それ以降手に入れるのが難しくなるのだ。それでも奪えるとという自信があるのか、それとも他になにか理由があるのか。
「よく、やった」
いつの間にか傍らに控えていた
結局、あの少年がなぜ玄武の宝玉を狙っていたのか、村の人たちをあんな目に遭わせたのか、なにひとつ解らないまま。
「あの子は、何者だったんだろう」
「宝玉を狙うなら、いずれ、また会うことになるだろう。その時に解る」
「君は、罪を犯したけど、あの子が操らなければ静かに暮らしていたんでしょう?
このまま洞窟を出て、みんなと合流すれば、疑われることはないはず。何年、何十年、もしかしたら何百年と人を襲わずに生きてきたかもしれない妖獣が、操られることでその力を使われ、利用されるなんて、なんだか可哀想だし理不尽だと思った。
もちろん、その手にかかってしまった人たちのことを想えば、それこそ理不尽であったと言わざるを得ないが。
「君の想うままに、」
鬼蜘蛛はふたりに頭を下げ、そのまま洞窟のさらに暗い奥の方へと消えていった。それを確かめてから、
「夜が明ける前に、ここを出よう」
「うん。そうだね、早くみんなの所に戻ろう」
朝になれば、自分たちを皆が捜し回るだろう。そうなれば、色々と言い訳を考えるのが面倒になる。
「足元に気を付けて」
手を握ったまま、
少しずつ明るくなってくる道の先は、白い光で反射してその先がよく見えない。洞窟からやっと抜け出し、細めていた瞼をゆっくり開けると、薄墨色の空に橙色と藍色が混ざって、光がその隙間から射し込んで眩しかった。
「朝だね、」
ぐっと伸びをすると、
「公子様、見て! 村がっ」
「
その表情はどこまでも冷静で、繋いだ手から感じる温度も変わらない。それに安堵して、
「しっかり掴まって、」
抱きかかえられ、答える間もなく
しっかりと薄青の衣にしがみついて、
明けた空はどこまでも青く澄んでいて、見たこともない景色が飛び込んでくる。空の上から見上げる空は、水の中にでもいるかのようだった。
(
祈る。どうか、何事もなくいつもの調子で叱って欲しい。
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