2-19 黒蟷螂の猛攻
まだ夜も明けない頃、それは突然襲ってきた。
遠くで何かを破壊する音が延々と聞こえてくる。幸か不幸かその鋭い鎌が鬼蜘蛛の糸を次々と切り裂き、精気の抜けた屍となった村人たちを地面に落としていく。
闇夜よりももっと暗い漆黒色のその妖獣は、今隠れている二階建ての家屋よりも、頭一つ分以上大きな黒い
故に、狭い場所や死角にいればなんとか身を隠せた。しかしその家屋もだいぶ破壊されており、ここもいつ壊されるか解ったものではない。
「とにかく、誰かと合流しないと、」
「な、なんなんですか? あれも蜘蛛みたいに操られてるんです?」
こそこそと囁くようにふたりは各々囁く。
「だとしても、目的は単純だ」
「······なんですか?」
「俺たちを始末するってこと」
さあぁぁっと
(一旦ここを離れて、
しかし
「ど、どうするんです? あの
あわわっと
「あんなの、どうにかなる相手じゃないですよ!」
「そんなことは解ってる。けど、このまま隠れていても時間の問題だ。すべての家屋を破壊されたら、どちらにしても終わりだ」
細身の霊剣を握り直して、
「お前はここに隠れていろ。俺が囮になって、ここに近づかないようにあいつをひきつけ続ける」
こうしている間にも家屋がどんどん破壊され、鎌を振る音と同時に大きな咆哮が上がる。その度に、飛び散った木材や瓦が空中に舞って地面に音を立てて落下する。
漆黒の中光る眼は深緑色で、それは夜空に浮かんでより不気味に見えた。
案の定、人の匂いを察した
その速さは尋常ではなく、
(脳なしじゃないってことか。厄介すぎるだろっ)
前にも後ろにも退路がなく、
(ということは、足元は死角ってことだろっ!)
真っ正面を見据えて、
右手で印を結び、剣の刃にそのまま指を這わせる。途端に、霊剣が暁の光を帯びて辺りを照らした。その光はまるで小さな太陽のようで、
それに腹を立てたのか鎌をぶんぶんと無造作に振り回し、辺りの建物を破壊してしばらく暴れた後、
(こうなったら朝まで逃げ切ってやる!)
夜明けまであと二刻くらいだろうか。だいぶ時間があるが、他に手立てはない。
あとは
(今はこれでいい······けど、)
その時だった。
あの時、
それはまるで大輪の花のように美しく、清らかささえあった。
降り注ぐ薄青の光の帯に、
(けど、俺は、知りたい! あの人たちがこの状況をどうやって打開するのかを!)
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