2-18 黒衣の少年
洞窟の中は薄暗いが、所々に生えている
奥深くには張り巡らされた糸の結界があり、それに囲まれるように鬼蜘蛛が脚を縮めて休んでいた。
その糸には、大人ふたりは入りそうな大きな繭が三つほど括られており、繭たちは薄闇の中でうっすらと青白く光っているように見える。
「これはどういうつもりなの?」
黒装束を纏った、少年らしき声が鬼蜘蛛に問いかける。
鬼蜘蛛は反応を示さず、同じ体勢のまま、糸の結界の内側で言葉を聞き流す。この中に少年は入れないらしく、苛つきが声に出ていた。
「俺の蟲笛を遮っただけじゃなくて、他人が操っている
頭に深く被された衣が、少年の表情さえも隠す。皮肉な声で軽く声を上げて笑う。
「鬼蜘蛛もたかが
久々に能力を使ったため、力が劣っていたのかもしれない。かつての自分ならこんなへまはしなかった。それもこれも全部あの笛の音のせいだ。
「まあ、これで俺の任務は完了なわけだし、鬼蜘蛛を完全な
少年は口元に蟲笛を付け、息を吹き込む。すると、真後ろに少年の二倍以上大きな黒い
「鬼蜘蛛の肉を喰らうのがそんなに楽しみか? だがその前に、お前には邪魔が入らないように他の奴らの始末をしてもらう。お楽しみはその後だ」
首をかくかくと左右に動かし、大きな深緑色の眼で鬼蜘蛛の方をじっと見ている
「さっさと行け。夜が明ける前に終わらせろ」
命を受け、巨大な
「まあ、本来の目的さえ完遂すれば、過程なんてどうだっていい」
少年は近くの岩に腰を下ろすと、そのままぶらぶらと足を揺らす。
「あいつは俺たちを利用しているつもりだろうが、利用されてるのは自分だってことを思い知ればいいんだ」
口の端を歪めて言い放つ。首から下げた蟲笛を指先で弄びながら、少年は漆黒の衣の奥で不敵な笑みを浮かべる。頭から深く被った衣は、口元以外は影になってよく見えない。
少年のような姿をしているが、実際のところは解らない。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、楽し気に身体を揺らす。調子はずれで独特な音程のその鼻歌は、洞窟の中で反響し合い、不思議な音色を奏でていた。
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