2-13 甘やかさないで
なんとか吊り橋を渡りきると、渓谷に沿って下りの細い道が続いていて、やはり一列になって続いて歩く。昼になる頃には、滝の下の大きな湖の畔に辿り着いた。
上から勢いよく落ちてくる滝の水は、湖に大きな音を立てて跳ね返り、かなり離れた場所まで霧のような飛沫が飛んで来る。
下から上を眺めてみれば、吊り橋が細い縄のように見える。あんなに高い場所から降りてきたのだという実感が湧く。
仙境のような空想のセカイに似たその光景に、
湖の先は細い小川になっており、それは遠くへ行くほど大きな川になっていき、その先には小さな村がある。今日の目的地であった。
「少し休んだら、出立する。何事もなければ夕刻前には
昼餉は簡易的なもので済ませ、各々湖の畔で身体を休める。竹筒に水を補充して、
「
「ここはもう
肩を竦めて答えるが、
「本で読んだんだけど、
後ろに立っている
ぽたぽたと顔から滴る水が気になったのか、答えるより先に自分の衣の袖で軽く拭ってやる。
(またやってる······なんなんだ、こいつらは)
その隣で見せつけられている身にもなって欲しい。
「へへ。ありがとう、公子様」
「······名で、呼んでくれてかまわない」
袖を離し、少し困ったような顔で
「うーん。じゃあ教えてくれる?」
見上げていた顔を俯かせて、
「なんで俺を助けてくれるの?」
ずっと。出会ってから今の今まで。どうして他人である自分を助けれくれるのか。
いくら
それがなんであれ、心を許してしまう自分がいることも事実で、迷惑だとかそういう風に思ったことはなく、むしろその無償の施しに甘えてしまう。
「あの渓谷で出会った鬼も、そう。ずっと前から俺を知っているような口ぶりだった。君も、あの時言っていた。みつけられてよかった、って」
まるで、そうまるで、ずっと捜していたかのような、そんな言い回しだった。
「俺は、君にも、あの鬼にも会ったことがない。でも君とあの鬼は面識があるみたいだった。あの鬼は自分の
ふざけたり誤魔化したりする必要もない。この件は、いつか話してもらいたいと思っていた。しかし道中にそんな機会はなく、今なら他の者たちは離れた場所にいて、ここにはふたりしかいない。
「俺は、君やあの鬼にとって誰なの?」
「········その問いには答えることができない」
それは、予想していなかった答えだった。訊ねれば答えてくれる、そう信じていたのに。答えられないと
「わかった。もう聞かない。その代わり、俺のことはもう甘やかさないで」
立ち上がり、
表の表情はまったく変わっていないが、心の内は大きな波が渦巻いていた。
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