2-5 痴れ者、攫われる
奥に行くにつれ、深い森は明るいはずの時間なのに薄暗く、背の高い木々と濃い葉っぱに覆われて影だけが地面に落ちる。
二列で進む一行の横を、のそのそと歩き回る
(決して弱い妖者でもないのに、あんなに軽々と倒すなんて)
「どうしたの
「それだけはやめてくださいっ! ······って、
「え? 初めて会った時に教えてくれたでしょ?」
十年くらい前の話で、しかもそれ以来会話という会話をしていないというのに?
耳を塞いで首を振っていた
一緒に働く従者たちは別として。
「父上がお付きの従者をひとり指名していいって言うから、唯一知ってる名前を上げたんだっ」
一瞬感動を覚えたのに、一気に谷底に突き落とされる。
ははっと笑って頭の後ろで両手を組み、後ろ向きで歩きながら楽しそうにこちらを見上げてくる
そんなやり取りをしていた時、
すみません、と会釈をされ、くるりと身体の向きを変えた
「······気を付けて、」
「これは······鬼火か?」
それはどんどん増えて、気付けば一行の周りをぐるりと囲むように青白い炎の塊が連なっていた。
「渓谷の妖鬼の仕業かもしれない。下手に動かない方がいいだろう」
太陽もまだ出ていて、渓谷まではまだ距離があるというのに、こんな場所で一体なにをしようというのか。鬼は何に興味を持ったのか。
鬼火が灯ったと思えば、今度は濃い霧が辺りを覆い始めた。それはお互いの姿が見えなくなるほどの霧で、
「ひぃっ!? なななな、なんですかっ」
「しっ! それはこっちの台詞だっ! って、なんでお前が隣にいるんだっ」
小声で怒鳴りながら
お互いの顔が見えたことにほっとしたのも束の間だった。
「
「
焦って何度も辺りを見回すが、見えるのは深い森の木々だけで、ますます動揺してしまう。そんな姿を見た宗主が、
「落ち着きなさい。どうやら、気に入られてしまったようだね」
「どういう、意味ですか?」
宗主は真剣な面持ちで
(ひぃぃいっ!?)
その行為に
とばっちりを受けたその大木はみしみしと大きな音を立てて、
地面に崩れ落ちる大木の地響きと同時に、枝にとまっていた烏たちがぎゃあぎゃあと鳴き叫ぶ声と、羽ばたきが煩く響き、
背筋がぞくりと震えて、現実に戻される。
「場所は見当がつく。渓谷の底だ」
油断していたわけではないが、声すら出させずに煙のように人をさらうなど、並大抵の者ではないことが解る。
「彼は無闇に傷付けたり、まして殺したりはしないだろう」
この場からすぐにでも渓谷に向かおうとしていた
人の世に関わるのは、気が向いた時だけ。その気を向かせるほどの器ならば、すぐに解放することも稀ではない。
「あの子も賢い子だ。大丈夫」
何の根拠もなかったが、
そして一行が渓谷の吊り橋が見える辺りまで辿り着く頃には、陽が沈みかけ、夕焼けの空が燃えるように朱色に染まっていた。
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