2-22 白笶の願い
目を覚ますと、自分の失態に血の気が引いた。
薄暗いがお互いの顔や姿はなんとなく解る仄かな明るさの中、腕の中で眠る
腰と肩に回していた手を思わず放すと、凭れていた
状況を把握するために辺りを見回す。繭のような壁に包まれており、自由に身動きは取れないが、大人ふたりが足を延ばせるくらいの広さはある。
あの時、負傷した右肩は衣が破れて濡れているが、傷は塞がっていた。口から顎にかけて水が零れたような痕があり、袖で拭う。反射的に
思考をしばし停止して、無言で
「······君に、話したいことがたくさんあるのに、」
普段あまり表情の変わらない
「私は、なにも伝えることができない。だから、どうか、思い出さないで欲しい。なにひとつ思い出さず、今のまま、どうか、」
祈るように、自分より小さく細い手を握り締める。どうか、思い出さないで欲しい。そうすれば、これ以上不幸なことは起こらないだろう。
ずっと傍にいて、そのたくさんの表情を見ていられたら、それだけで。
「君の傍にいさせて欲しい」
右の手を取り、そのまま手の甲に口付けをした。あの時、渓谷の鬼が口付けた場所と同じ場所にそれは落とされる。触れた唇は少しだけ震えていた。
しかしそれが幸いして、いつも口にすることのない気持ちを盗み聞いてしまった。
(心臓が飛び出そう、)
その行為も、言葉も、誠実さしかなく、それが彼の真実であることに、心臓が煩いくらいばくばくと鳴っている。
ようやく指から唇が離れ、今だとばかりに
「······平気?」
「俺は、大丈夫。眠ったら回復したみたい。公子様の怪我はどう?」
「君のおかげで、もうなんともない」
「ああ、うん、俺がなにしたか解ってて言ってるよね。でもあれしか思いつかなくて。ごめんなさい」
問題ない、と平静な声で答え、身体を起こすのを手伝って、
少し乱れた髪の毛に触れ、緩んでいた髪紐を結び直してやる。慣れた手つきで器用に元の整えられた髪に戻すと、
「ここから出て、外の状況を把握しないと」
「うん。でもどうやってここからでるの?」
「ここは巣で、この繭が獲物を入れておくための物だろう」
「近くにいるってこと、だね」
頷いて
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