1-22 竜虎の苦悩
奉納祭の後、
奉納舞での
(あれは······
なぜあのひとがこんな所に? という疑問と、昨夜のこともあって、
(そいういえば、あの時も、らしくないことをしていた)
大勢の前であんな風に発言をする姿を、見たことがない。少なくとも奉納祭のように、他の一族が集まるような場に参加する歳になってから一度として、彼が言葉を発した所を見たことがないのだ。
だから昨夜のことも本当に驚いた。
(俺たちが先に帰った後、なにかあったのか?)
自分が目を覚まして庭に出た時も、ふたりで何か話していた。
初対面のはずなのに、あの距離感も気になった。
ぶんぶんと頭を振って、
そしてあの見事な笛の音と舞が、今も脳裏に焼き付いて離れない。
けして広くはない邸だが、部屋はいくつかある。しかし
(だが、彼がそれをしてやる義理はないはず)
助けられたのはこちらで、恩があるのもこちらだ。人助けに余念がないのが
そしてその意味を、目の当たりにする。
扉はなく、御簾も上がっているその部屋の中で、
部屋の中の様子を覗うと、
なにか話しかけていたようだが、見ていられず、
(ちょっと待て! なんで俺は逃げてるんだっ!?)
だいぶ離れた所で、ふと冷静になる。だが耳がとてもじゃないが熱い。顔も真っ赤になっているだろう。頭を抱えて、その場にしゃがみ込む。
(あの距離感はなんなんだっ!?)
自分たちがじゃれ合って肩に手を回したり、頭を撫でたり頬をつねったりするような距離感とはまた違う。言葉で表したら、恥ずかしくなるような、そんな、なにか。
真っ赤になったかと思えば、真っ青になって、
(見なかったことにしよう。俺は何も見ていない。見なかった)
言い聞かせるようにして、ぶつぶつなにか呟きながら、本邸へと足を向ける。この件は自分の胸にしまっておこう、と心に決める
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