同人誌の終わり
『カクヨムとは巨大な同人誌である』
数年前、私は創作論でそう考察しました。
当時、カクヨムの読者は『なろう』よりも圧倒的に少なかったはずです。
いくら頑張って書いてもPVは伸びない。★も、もらえない。それでも居場所を求めて大勢の作者が集まってきました。
その大部分は、自分は『なろう』では認められないと考えている人たちでした。
異世界物だけが偏重されることにストレスを感じ、自分はあの流れには乗れないと思っている人。でも、自分の書いている作品には『なろう』よりも価値があると考えている人たちです。
それが本当に正しかったのかどうかは、今回の論評の対象ではありません。
ただ結果として、それらの作者たちは共通の仲間意識を持つことになりました。
今は認められていないけど、みんな凄い。きっといつかは認められる。そしていつかは自分もその中に割って入ってみせる。
そしてカクヨムには、仲間たちをつなげるために必要な機能がついていました。
近況ノートや企画システムを使えば意見交換や仲間の募集が容易にできます。これにより互いに覆面でありながら、互いを知る特定の個人同士の交流が無数に生まれたわけです。
カクヨムの作者たちは、巨大な同人誌に集うサークルの仲間のような存在でした。
これはとても素晴らしいことです。
共通の価値観を持つ全国の仲間たちとつながっていられる。小説を書くという孤独で先の見えない行為に、仲間からの評価や助言がもらえる。モチベーションが高まることで、創作がはかどる。自分が成長していると実感できる。
しかし、この状況には限界があります。
いや、むしろこの状況こそが、幾つもの条件がたまたま満たされたことで生じたある種の『奇跡』だったと言えるでしょう。
だから当然、永遠に続くわけではありません。
創作ツールとしてのカクヨムは健在です。むしろ進化しています。
しかし、あるシステムの導入で環境は劇的に変化してしまいました。
それはロイヤルティープログラムの導入です。
これにより、収益化の間口が飛躍的に広がりました。書籍化しなくても……あるいは書籍化して売れなくなった後も、収益が得られる可能性ができたわけです。
なろう作者が、なろうにこだわる理由も減少しました。
創作系のウェブサイトは、原則的に同時投稿が禁止されていません。
なろう系、その他の作者がカクヨムに流入し、その結果、読者も飛躍的に増加しました。それはさらにプログラムによる収益性を高め、カクヨムから書籍化される機会を増やすことになったわけです。
これにより、カクヨムの作者は誰もが金銭で評価され得るようになりました。
もうすでに、カクヨムは過去のカクヨムではありません。
『なろう』への劣等感もほとんどなくなり、『誰もが未完の大器』と思わせてくれるような同人サークル的な環境も消えました。
この変化はカクヨムの商業的な発展にとっては望ましいことです。
ですが、そのことを寂しく思う人間がいることも同時に知っておいていただけたらと思います。
ウェブ小説とカクヨムについて考えてみたII【令和版】 千の風 @rekisizuki33
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