『プロの小説家』と『書籍化作品の作者』との違い

 ウェブ小説が身近な物になって大きく変わったこと。そのひとつが書籍化されるチャンスが増えたことでしょう。

 小説サイトで人気作品になれば書籍化の声がかかる。また、小説サイトにアップした作品を、公募作品としてそのまま投稿できる。そのおかげで毎月のように多くの作品が書籍化されています。


 ただし、物事には必ず裏の側面もあります。

 常に新しい作品が供給され続けるということは、逆に言えば既存の作者の作品が書籍化されにくくなるということになります。一度受賞したからといって、受賞作の続編以外で続けて書籍化されることは稀です。


 ここで、この論考における『プロの小説家』という概念を整理しておきましょう。

 色々な考え方がありますが、今回は『何かしらの金銭を小説から得ること』とは定義しません。その意味であれば、ロイヤルティープログラムに参加して五百円以上稼いでいる人、同人誌を一冊でも売った人も全てが『プロの小説家』になってしまいます。

 また、『〇〇万円以上を稼ぐこと』と定義すると、一作しか作品を書いていないいわゆる『一発屋』も含まれることになります。


 この論考では『プロの小説家』を『読者や編集者に名前を認知され、継続して書籍化される作家』。つまり『レーベル買いやジャンル買いではなく、作者買いされる作家』と定義します。


 過去においては作者買いの方が主流でした。

 思えば星新一や筒井康隆、赤川次郎、新井素子など、著名な作家にはそれぞれのファンがいて、その作品を読みあさったものです。


 現代のライトノベルでは西尾維新などの例外を別にして、そのような作家はめっきりと減ってしまいました。つまり『筒井康隆』などの作家のブランドが、『電撃大賞受賞作』、『なろう年間ランキング1位』などのブランドに置き換わってしまったのです。

 結果として、書籍化した後も『顔のない作者』として、次のチャンスを待つケースが増えたように思えます。


 最近では書籍化経験者を対象としたコンテストも珍しくなくなりました。新たな選抜方式として出版社としては旨味があるのでしょうが、プロを目指す書き手に対しては厳しい状況です。



 それでは『作家買い』されるためにはどうすればいいか。


 ひとつは作風の違う作品を複数ヒットさせることです。

 この作家は今度は何を見せてくれるんだろう。そう思わせるようになることです。多作で知られる西尾維新などがその例になります。


 もうひとつは『特別な自分だけの作風』を確立することです。

 この世界観に浸りたい。この作家の作品をずっと読んでいたい。そう思わせることができれば成功です。


 どちらにせよ、プロ作家へのハードルが高くなっていることは間違いありません。

 公募全盛の環境がプロ作家を目指す人間にとって、実はピンチなのかチャンスなのか。


 なかなかに難しい話です。



 

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