水は器によって形を変える
よくウェブ小説は会話文ばかりで地の文が少ないと言われます。短文が多く描写は少なめ。まるでアニメのシナリオを読んでいるようだと評する人もいます。
仮にそのような傾向があるとして、その理由は何なのか。
私はそれをハード面の制約から生じた読書環境の変化にあると考えています。
ウェブ小説の市場が拡大したことに、スマホが関係していることは間違いありません。
小説をスマホで読む人が増え、それが文章の簡略化を生んだ。スマホではその方が読み易いから、自然とそういう文体が選択された。
そう考えればスッキリと理解できます。
たとえば韓国発のウェブトゥーンという漫画があります。
縦読みの漫画でコマ割りがありません。これは明らかに小さい画面で見ることを意識したスタイルです。四コマ漫画を延々と縦に続けたような形式なので大判の雑誌には向きませんが、これがスマホでは圧倒的に読みやすいのです。
同じようにスマホで小説を読む場合は、短文が有利になります。
スマホの幅は縦よりも横の方が狭くなっています。当然、一行で書ける文字数もそれだけ少なくなります。長文だと折り返しが頻繁すぎて視線の移動が激しくなってしまうのです。
それならば縦書きで読めばいい。そう思うかもしれません。スマホでも縦書きなら一行に表示できる文字数を増やせます。カクヨムやなろうも縦読みに対応しているので、やろうとすれば実際に可能です。
しかし、ここで読書スタイルの問題が出てきます。
スマホで読む人のほとんどは空き時間を使って読んでいます。それも多くの場合、定期的に別の作業が入ります。数分の時間で小説を拾い読み、その合間にメールをチェックしていることを想像してみてください。縦読みと横読みの混在はかなりのストレスになるはずです。
そして結局は横書きで読むことになり、必然的に読者は簡便な文体で書かれた作品を求めるようになります。
実は、このような変化は以前にもあったことに気づきました。
ハードカバーしかなかった時代から、文庫本が登場した頃です。安価で軽い文庫本は、今までは気軽に本を買えなかった読者層を掘り起こすと共に、スキマ時間で本を読むことを可能にしました。
この時にも、文章や作品内容の低俗化という議論があったようです。
しかし文化の大衆化という意味では間違いなくプラスの効果があったはずです。文庫本はやがて文化の一形態として定着し、過去の名作を普及させる役目も果たすことになりました。
さて、それでは今後のウェブ小説はどうなっていくのか……。
私はこの流れは永久に拡大していくものではないと考えています。
それは、これからもハード面の進化は続くと思うからです。
長い文章を含んだ文章を楽しむ場合、横読みでは最低どのくらいのサイズがあればいいのか。私はそれを現在のスマホの二倍ほどの面積だと考えます。
つまり折り畳み携帯やタブレットで作品を読むことが普通になれば、ウェブ小説にも質的な変化がおこる可能性があると思うのです。
もちろん、全てがそちらに移行するというわけではありません。
しかし幅のある、もっと多くの表現が生まれてくる。十年後にはそんな時代が来るのかもしれません。
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