第200話 新しい協力者を手に入れる
探すべきものは二つある。
コルトとアーシアが今どこにいるのか。
ファクトリーが何を隠しているのか。
その夜、ウィンディは寮を抜け出して、アッシュが泊まっている宿を目指した。
夜も深い時間というのにアッシュは黙々と大剣の手入れをしていた。
「魔物に襲われたの?」
「大した相手じゃなかった。それより問題でも発生したのか?」
当然の訪問というのに紅茶を淹れてくれたアッシュに要点をかいつまんで伝えた。
「ルームメイト二人が消えたと? その真相を調べたいのか?」
「お願い、アッシュ。一週間滞在する予定を少し伸ばせないかな」
ウィンディの目から決意を感じ取ったであろうアッシュは快く賛成してくれた。
「急な話という気はするな。子供が別のファクトリーへ移籍するのは珍しくないとはいえ。分かったよ。お金の心配はしなくていい。気が済むまでファクトリーに残ればいいさ」
ただし釘を刺される。
「お前もマーリンも子供だからな。無茶はするなよ」
「分かってる。マーリンは危険に巻き込まない」
アッシュの了承を取り付けたウィンディは、マーリンを待たせてある寮へ戻ろうとしたわけであるが、途中、聞き覚えのある音に誘われた。
竪琴の音だった。
吟遊詩人のフォルテが近くにいるらしい。
「おや? お嬢さん……」
フォルテはご神木の広場にいた。
会うのは例のスープ屋以来である。
灰色の髪に月光が注ぎシルバーに光っている。
「こんな時間に外出とは、いくら治安のいいジューロンとはいえ不用心なのでは?」
「そっちこそ。真夜中に半裸はどうかと思います」
フォルテは自分の体を見て薄く笑った。
「眠れない夜というやつでしてね」
「探し物が見つからないから悩んでいるのですか?」
「そんなところです」
ポロンと弦が鳴る。
「お嬢さんも探し物をしていますね。焦りが顔に出ていますよ」
「…………」
「見つかるといいですね。お互いに。幸運を祈っています」
ビュウっと強い風が吹いた。
ウィンディが目を開けると、フォルテの姿は
最初から存在しなかったみたいに。
「いけない。早く帰らないと」
まともに正面から入ると守衛に見つかるので、裏手からファクトリーの塀を乗り越えた。
「お帰りなさい」
心配しながら待っていたマーリンの頭をクシャクシャする。
「アッシュと話をつけてきた。もう少しファクトリーに残っていいってさ。でもお金に限りがあるから、早めに片をつけないと」
ウィンディは窓の外を見つめる。
「何かあったのですか?」
「いや……」
フォルテと会った。
それを伝えても仕方ない。
単なる幻影だったかもしれない。
「それより今後の作戦を二人で練ろっか」
「はい、記憶を頼りに敷地内の地図を用意してみました。一部、不明瞭な部分がありますが」
「おおっ、マーリンって記憶力がいいんだね」
いつもは寝ている時間だけれども、この夜のマーリンは張り切っていた。
……。
…………。
次の日、新しいルームメイトがやってきた。
予想していた通り女の子の二人組で、どちらも一号棟の子だった。
「よろしく」
「こちらこそ」
年齢はウィンディと同じくらい。
二人ともジューロンへやってきて一年目なので新参者の部類に入る。
ウィンディは腕組みをした。
彼女らは監視役だろうか。
自分たちの正体がバレている可能性は正直ある。
こちらの行動を逐一報告させるためオリーブが二人を寄越したのかもしれない。
「隠しても仕方ないから最初に言っておくけれども……」
ウィンディは奇策に頼ることにした。
「私たちって魔剣士の関係者なんだ」
二人はキョトンとする。
冗談なのか図りかねている顔つきだった。
「エリシア様の密命を受けてジューロンのファクトリーを調べている。だから短い付き合いになると思う」
これはダメ押し。
「本物のエリシア様と会ったことあるの⁉︎」
「ジューロンのファクトリーに問題があるってこと⁉︎」
二人は別々の反応を示した。
一つ一つ答えることにした。
「王都には魔剣士候補の人たちがいる。私もその中の一人。証拠になるか分からないけれども、私の能力を見せておくね」
クロノスの瞳の過去視を使った。
故郷のことをイメージしながら握手してもらい、二人の家族構成を言い当てた。
(他人の過去をのぞくのって、気持ち良いものじゃないけれども……)
退屈な日常にうんざりしていたのか、二人はウィンディに強い興味を持ってくれた。
「あなたって将来の魔剣士ってこと⁉︎」
「そうなれるよう努力している。二人には手伝って欲しいことがある」
「何でも協力するわ」
これで新しい協力者が手に入った。
《作者コメント:2022/11/28》
Special Thanks, 200 episodes‼︎‼︎‼︎‼︎
『お前だけでも生き延びろ!』と言い残して早十年、愛弟子が俺好みの女に成長していた ゆで魂 @yudetama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『お前だけでも生き延びろ!』と言い残して早十年、愛弟子が俺好みの女に成長していたの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます