188.こっちの仕事は任せておけ

「ここが……」

「エルフの森……」

「凄く静かだ……」


 遠征から一か月半を費やして俺達はいよいよエルフの集落がある森へ到着していた。森から出ていると目立つので隠し通路と入口の半分くらいの距離で待機してもらうことに。

 初めて見るエルフの森はその辺にある場所と違い、静かで心なしか肌寒い神秘的な印象を受ける。そんな光景に騎士達が感嘆の声を上げていた。


「そうですよ。ご存知の通りエルフは人間達を警戒しているので、森で変なことをしないようにしてくださいね」

「ハッ、もちろんですミズキさん!」

「はい!」


 水樹ちゃんが諭すように騎士達へ伝えると、彼らは敬礼をして返事をする。その様子を見ながら、肩に槍を担いだ夏那が俺の隣に立つ。


「なんかみんなのアイドルみたいになってるわねえミズキ」

「食事なんかで面倒を見ていたし、ケガをしたら水樹ちゃんが回復魔法を一番使っていたからな。お前だって」


 と、俺が目配せをすると夏那もそちらへ視線を向ける。


「カナ殿、我々の部隊はいつでも動けますよ」

「ありがとう。これから先はあたしと水樹、風太だけで行くからここはよろしくー」

「「「はい!!」」」

「お前も十分だな」

「な、なによ……!」

『カナはまだまだねえ』


 ポカポカと肩を叩いてくる夏那に苦笑しながら風太の方を見ると、向こうは和気あいあいとした様子でタスクとミーヤと騎士が集まっていた。

 

 さて、ギスギスにならず長旅ができたことは良かったが――


「それじゃ悪いが三人は集落へ行ってくれ。ファングもいいぞ」

「わふ!」

「久しぶりにポリン達と会えるのは嬉しいわね」

「うん。ファングもエミールちゃんと遊べるかもね」

「では行ってきます」

『そっちも気を付けてねー』


 三人と一匹とリーチェが森の奥へ消えていくのを片手を上げて見送った。リーチェと風太の中にいる大精霊が居ると長のグェニラも安心だろう。そこで隣に立っていたレスバが口を開く。


【とりあえず一安心ってところですかね】

「まあな」


 レスバがそう言って俺が適当に返すが視線はお互いを見ていない。そんな会話をしていると騎士が数人俺のところへ来て話しかけてきた。


「リク殿、我々はここで待っていればいいのでありますか?」

「それで頼む。ああ、キャンプはちょっと待ってくれるか?」

「は? それは構いませんが一体どうして?」

「それほど難しいことじゃない。どうやらお客さんを連れてきてしまったらしい……<煉獄の咢パーガトリィ>!」

「……!」


 俺は言うが早いか魔力を高めて頭上に居るなにかへ魔法を放つ。黒い炎が木々の間を抜けて舞い上がり、先程までレスバと視線だけ向けていた方へ飛んでいく。

 焼けた葉の匂いが鼻をくすぐる中で上空を凝視していると、魔法がある地点へ到達した瞬間に二つの影が移動するのが見えた。


「あれは……!?」

「魔族だ! もう一ついくぞ<烈風スラッシャー>!」


 片割れの方へ切れ味の良い風魔法を撃ち出す俺。

 避けた方向のさらに先を読んで撃ってやったが向こうも中々やるようで、危険を察知した魔族は手を払い烈風スラッシャーを打ち消した。


【チッ……! 随分と強い人間が居る……!】


 あいつは――


「ま、魔族……! 監視されていたのか!」

「どうやらそうらしいな。どこからついてきたのか知らないが、エルフの森で俺達がなにかすると判断して仕掛けてこようとしやがった」


 それまで上手く隠れていたわけだが奴ならそれくらいはできるかと俺は上空の二人に声をかける。


「よう、相変わらず隠れるのは上手いな『魔光将ブライク』! そっちの奴は副幹部の『ビカライア』だったか?」

【……!】

【なるほど、今までの人間とは違うようだな……】

「しゃ、喋った……!?」

【喋るわ!? ……まったく、一網打尽にするつもりだったのだが計画が狂ったな】

【仕方ありませんブライク様。しかしこれだけ集まっているなら……今からでも遅くありませんよ! <爆裂の螺旋ブラスト>!」


 なるほど、血の気が多いのは変わらないなと思いつつ俺は空に片手を上げて魔妖精の盾シルフィーガードを発動させる。魔法盾に爆裂魔法が接触すると、強烈な閃光と爆発音が


【なんだと……!? 騎士達はおろか森を覆うほどの魔法盾を展開できるのか!?】

「まあな。さて、見ての通り俺はこれくらいの芸当はできる。なので空から魔法をいくら撃ってもこっちには届かないぞ。……やり合う気があるなら、森の外で相手をしてやるが?」

【生意気な人間め……! 受け続ける魔力があるわけがないだろう? ブライク様、やりましょう】

【……いや、奴の言うことを聞いてやろう。気になることがある】

【なんですって!?】


 ビカライアが悲鳴のような声を上げる。しかしブライクは俺を見ながら誘導するように顎を動かし、ついてこいと草原の方へ飛んで行った。


【ま、待ってください! おい、人間ども。ブライク様のやさしさに感謝するのだな!!】

【相変わらずですねえ】


 慌てて飛んでブライクを追って飛んでいくビカライアを見てレスバがポツリと呟く。ブライクは俺も知っている魔族で、珍しく副幹部を常に連れている奴だ。実力はグラジールと同じくらいで二人一組の入れ替え戦術は結構苦戦させられた覚えがある。


「そそっかしいから隙もあるんだよな」

【ですです。それじゃ行きましょうか】

「だな。騎士達はこのまま待機で頼む。風太達が戻ってくると同時に恐らく聖木を持ってくるはずだから馬車へ積み込んでくれ」

「し、しかし魔族をお一人で戦わせるわけには……! このためにも派遣されています!」

「大丈夫だ。俺はレムニティを倒したんだぞ? この場を守り切るのもお前達の役目だ。……来たぞ」

「ハッ!?」


 グラジールの時は遭遇戦だったのですぐにカタがついたが、今回は強襲するため追って来ていた奴等が準備をしていないはずもなく。


「レッサーデビル達は任せた」

「……! かしこまりました!」


 レッサーデビル達が森の入口方面から現れた。馬は守ってくれよ? そう思いながらレスバと共に駆け出し始めた。

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