187.三人とも頼れるようになってきたか?

「グランシア神聖国はよく寝床を用意していたもんだぜ」

「だいたいどれくらいの規模か予知していたんじゃない?」

「お、そりゃありそうだな」


 俺達の旅は順調に進み、二日ほど前にグランシア神聖国を経由して再びエルフの集落へ向けて移動していた。

 今は休憩と打ち合わせを兼ねて高校生達と合流して話している最中だ。


 ちなみに話が上がっていたグランシア神聖国では到着早々、町の人間に歓迎されて騎士を含めた全員を町中で休ませてくれた。神殿というわけにはいかなかったし全員が建物の中では無かったもののゆっくり休めたのは間違いない。


「でもメイディ様は出てきませんでしたね」

「自国の人間以外には姿は見せないんじゃないかい? 僕達も呼ばれてから会えたわけだし」

「だな。まあ婆さんが聖女じゃ萎えるのもあるのかもしれない」

【たまにアホなことを言いますよねリクさん】

「あ、やっぱわかる? 前も自分は魔族だなんて言ってて寒かったわ」

【へえ……】


 レスバと夏那の視線が冷たい。しかし、その程度で怯む俺ではない。咳ばらいを一つしてから話を進めることにする。


「コホン! それはともかく部隊に問題はないか?」

「僕から夏那達までの騎士さんは大丈夫です。けど、ちょっと馬の足が遅れている個体が居ますね」

「タスクとミーヤは?」

「戦闘でも先陣を切って戦ってくれています。あ、もちろん休んでもらってますよ」


 こうやって何日かおきに全体の確認をする打ち合わせをしているわけだが、特に指示しているわけじゃない。

 伝えたことは『周囲の様子も気にかけておいてくれ』だけである。

 それでも風太の気配りは洞察力に変化している感じで色々と教えてくれていた。


「あたし達の方は特に無いわね」

「夏那ちゃんはあんまり周りを見ないから気づいてないだけだよ」

「え!?」

『私は上から見ていることがあるけど、ちょっと後ろの騎士が具合悪そうだったわよ』

「そうなの!?」

「魔物が出てきそうな時の勘はいいのに……」


 と、女子二人は勘のいい夏那と慎重な水樹ちゃんでバランスがいいようだ。水樹ちゃんが全体のケアをする形はなんとなく分かる気がする。


『カナはここぞという時の勘は凄いんだけどね。木の上に居たアックスモンキーに気づいてたし』

「そうだね。ヴァッフェ帝国で町に戻った時も夏那が言っていたよね」

「そうだっけ?」

「本人に自覚は無いのか。ま、夏那は突っ走っている方が合っている気がするけどな」

「そ、そう? へへ……」

「む。リクさん、私はどうですか?」

「え?」


 俺が夏那にそれはそれでいいと笑っていると、水樹ちゃんがずいっと詰め寄ってくる。真剣な顔で聞いてくるので頬を掻きながら目を逸らす。


「そうだな……水樹ちゃんは状況判断が早い。例えばレムニティとの戦闘をしている時にすぐに囲むように動いたのは見事だった」

「そ、そんな前のことを覚えているんですね……」

「後は世界樹との交信だな。リーチェが居るとはいえよく覚悟を決めてくれた」

「ありがとうございます!」

「むう」


 喜ぶ水樹ちゃんに対し、今度は夏那がむくれている。喧嘩でもしたのか? あんまり続くようなら話を聞いてみないといけないな。


「……まあ、水樹はそうせざるを得ない家庭環境でもあったろうしね」

「夏那ちゃん……。うん、多分周囲の状況に敏感なんだと思うの」

「今は解放されているからいいじゃないか。リクさん、それじゃ――」


 風太が暗くなりそうな二人の話を締めて提案を投げかけてくる。こいつの場合空気を呼んだわけじゃなくて天然っぽいけどな。

 とりあえずそろそろ休憩も終わりかとこの後の話を詰めていく。


 足の遅い馬は夏那と水樹ちゃんの後方に配置し、元気な馬と騎士を持っていくことに。具合の悪い、もしくは疲労が溜まっている者は聖木を積むための馬車で休ませてやるようにした。


「レスバ、空いた馬に乗ってくれるか?」

【構いませんよ! リクさんと並走すればいいですよね】

「頼むぜ」

「「むう」」

【な、なんですか二人とも……。顔が可愛いことになってますよ……】


 怖がっているのか褒めているのか分からないが、レスバの言う通り頬を膨らませている二人は珍しいなと思った。

 そんな感じで休憩が終了し、それぞれ決まったことをみんなに話して出発。

 

「ありがとうございますリク殿、具合の悪い者などの入れ替えを行っていただいて」


 出発してほどなくすると一人の騎士がやってきてそんなことを言う。御者台で本を読んでいた俺は騎士の方を向いて返事をする。


「ん? いや、あれは風太達が見ていて提案したことだから俺ってわけじゃない」

「そうなのですか。若いのによく見ておられる。やはりリーダーのあなたがしっかりしているからでしょうな」

「若い故に見守ってやらないとな。あんたもそういう立場だろ」

「ははは、そうですね。それに引き換えまったくウチの若い者は不甲斐ない」

「そう言ってやるなよ、戦争でもなけりゃ遠征なんてしないだろう」


 俺がそう言うと騎士は『確かに』と笑っていた。

 今さらだが魔物は冒険者がやるなら騎士は? と思うヤツも多いはずだ。

 概ね相手が人間に限られる騎士は他国と戦うための人員という意味合いが強い。もちろん強力な魔物を退治するため訓練された騎士が行くこともあるけどな。

 連携の取りにくい冒険者よりも数と統制が取れる騎士の方が楽に倒せることが多いからだ。


「後もう少しでしたか」

「ああ。向こうについたら森の入口付近で待機してもらう。エルフとの交渉は俺達だけの方がいい」

「はい。……エルフもたまに外の世界で暮らしている者もいるようなので、また共闘できるといいのですがね」

「まあ、難しいだろうな」


 あっさりと切り捨てる発言をすると困った顔で肩を竦めていた。メイディ婆さんの件もそうだが、人間がやらかした罪ってのは深く重い。今回は俺達が橋渡しになったが単独では協力を取り付けるのはまだ無理だろうな。


 こんな調子でさらに数日が経過。俺達はようやくエルフの森へ到着した。

 

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