189.魔族と魔族

「リク殿、そちらの方は一緒で大丈夫ですか!」

「問題ない。こいつを守りながらは戦いにくいだろっと!」

【グェェェエ……】

「で、ですね……」


 森を駆け抜けていく俺にレッサーデビル達を相手にしながら騎士達が声をかけてくる。

 レスバは町娘みたいな恰好をしているから幹部のところへ行くには心配だってところだろう。

 ただ、正体は魔族だし、もし本当の村娘でも俺が守りながらの方がいいと思う。

 

【フフフ、守られる姫の気分……!】

「やかましい。……っと、諦めが悪いのは相変わらずか」


 レスバがアホなことを口にしたので諫めていると、魔妖精の盾シルフィーガードに魔法がぶつかり爆発音が響き渡る。恐らくビカライアの奴だな。


【あの人は強いんですけど、煽りに弱いんですよねえ】

「お前と相性最悪だな」

【面白いですよ】


 悪びれた様子もなく笑うレスバに、副幹部同士の絡みというものもあったのかもしれないと肩を竦める。レッサーデビルを斬り倒しながら滑るように走り、森の外へと飛び出す。

 そこそこ本気で走ったけどきっちりついてくるあたりレスバも目を離すには油断できない相手だと再確認ができた気がするな。


【来ますよ】

「大丈夫だって」


 森から出た瞬間にも魔法が飛んできたのをレスバが示唆し、俺はそれを弾いてガードする。そのまま空を見上げると数体のレッサーデビルとビカライア、そしてブライクが見えた。

 こいつは光を操る幹部で総評としては割と普通。グラジールのような破壊の力は無いし、レムニティほどタフさはない。

 ただ、突出した能力ではない代わりにこいつはきちんと副幹部のビカライアを引き連れ、レッサーデビルもお供につけている慎重さが武器だろう。


「相変わらず仲間をしっかり使うんだなブライク」

【……その顔。人間、こちらは貴様を知らないがそっちはご存知のようだな? ビカライアはわかるか?】

【いえ、じっくり見ましたが覚えは……。これほどの強さなら覚えていそうなものですが……】


 それともう一つ。


 ビカライアもブライクも『油断しない』のだ。概ね人間相手なら魔族はこちらを見下す態度をとるのが基本なのだが、この二人についてはそれが無い。紳士的なレムニティでも魔族の強さに自信を持っているから見下してくる。


 こと、戦いとなるとこれほど厄介な相手は居ない。隙をつくのが非常に難しいので力の差があった場合、そのまま蹂躙されてしまうからだ。

 だが、今回はそれを利用できるかもしれないと、俺は話を続ける。


「まあ、ぶっちゃけると俺はお前達魔族のことをよーく知っている。名前以外のこともな。で、アキラス、レムニティ、グラジールを倒したのは俺だ」

【……!】

【なるほど。それで姿が見えない訳か。アキラスとグラジールはともかくレムニティまで倒すとは】

【し、しかし、証拠がありませんよ?】

【証拠なら先ほどの防御魔法で十分だろう? ……こいつは、強い】


 煽ってもそう来るか。

 とりあえず一目で『俺』だと分からないようなので、まずは制圧をさせてもらうとしようか。


「さすがはブライク。ならその実力を披露してやるぜ! <|煉獄の咢パーガトリィ》>……」

【待ってくださいリクさん】

「あ、どうした?」


 まずは叩き落とす。そう思って手を翳して魔法を口にしようとした瞬間、レスバが一歩前へ出て止めてきた。なにをするつもりなのかと思っていると、


【久しぶりですねお二人とも!】

【……誰だ?】

【人間に久しぶりだと言われる覚えは……いや、あるな。どこかの町で会ったかな?】

【いやいや気づいて!? ……わたしはレスバ。グラジール様の側近です!】


 空に居る二人に名乗りを上げた。

 なるほど、こいつらは副幹部を側近というのか。人間と一緒にいることに対してどう相手が出てくるか興味があるなと黙って成り行きを見守ってみるか。


【レスバ……!? 貴様、そうなのか!? 元の姿は出せるなら信じてやろう】

【うるさいですよビカライア。これでどうです?】

【ほう】


 レスバが久しぶりに魔族の姿に変化し、ブライクがポツリと漏らす。どういう心境での呟きか測りかねているとビカライアが続ける。


【レスバ……。確かにその姿は……。しかし、なぜ人間と一緒に居る? グラジール様はその男が倒したと言っていた。まさか裏切った、とでも?】

【まさか。ただ、このリクさんと戦うのは止めておいた方がいいと思いますよ? グラジール様が倒されるほどの実力がある、とわざわざ教えてあげたんですし】

【貴様……】

【裏切る、というより真実が知りたくなりましてね。ビカライア、あなたは『前の世界のこと』を覚えていますか?】


 レスバがに対してそんなことを尋ねる。これは打ち合わせには無かったが――


【前の世界だと……? 最終決戦に出なかった僕にそれを聞くか……。いや、お前も出ていなかったか】

【……?】

【では覚えているということですね】

【それがどうしたというのだ?】


 ……と、ビカライアは言うがこれは俺の中で大きな意味を持つ。概ね分かってはいたが記憶を持つ魔族がレスバともう一人居たということで確実なものとなった。


【ブライク様はどうですか?】

【前の世界……。ロウデンもそんなことを言っていたが、なんのことだ?】

【ロウデン様も……?】


 俺の知らない魔族の名前が出てきたな。

 だが、そいつが前の世界を知っている……覚えているなら、やはりそうなのだろう。



 ――そう、この世界のことを知らない魔族は恐らく『俺と戦って死んだ』奴等なのだ。

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