第一巻:~隣国 真相の半分~
「エラトリア王国へはここから行けるのかい?」
「ああ、そうだ。いくつか国境はあるがここからでも行けるぞ」
「通っても?」
風太達と電話をした翌日、すぐに国境へ向かう。
悪いことをしているわけではないので軽く挨拶を交えて通行を確認すると特に問題ないと通してくれるとあっさりしたものだった。
ただ、ロカリスの冒険者がエラトリアへ流れているらしくなにか起こっているのかと聞かれたくらいだ。
またエラトリア王国側の衛兵からは『陛下がエピカリス姫に頭を悩ませている』という話を聞くことができた。
「はっ、いいのか? 隣国同士の衛兵がここでそんな話をして。いざ戦争が始まったら敵同士だぞ」
俺が笑いながらそう言うと、
「はは、流石に戦争はねえだろ? 穀物の出荷を上げろってだけでよ」
「だよなあ」
と、楽観的な答えが返って来た。
末端と言っていいかわからねえが、このあたりの兵士にまで話は来ていないようだな。さて、衛兵の話を信じるとなるとエラトリア王国は現状黒からグレーに変わった。
さらにロカリス国が追手を差し向けたのは『戦争を仕掛けるかもしれない』ってことを俺が知っているから始末したかったのだと思った。
姫さんがどこまで考えていたか分からねえが、追手を始末されたのは誤算のはず。
さっさとエラトリア王国の城へ向かうべきだと判断し隣国へ。
しかしエラトリア王国へ入ると今までまったく遭遇しなかった魔物が押し寄せてきたのだ。
『リク、まだ来るわよ!?』
「チッ、なんだってんだ。<
背後を警戒してくれていたリーチェの声が街道に響き渡り、俺は視線だけ後方へ向け、魔法を撃ちこむと気味の悪い二本角のでかいウサギが腹に穴をあけて絶命する。
エラトリア王国へ入ってから一時間ほど進んだところですでに三度の襲撃があった。
「今ので四回目か、こっちは魔物が多い国だってことか?」
『にしても不自然じゃない……?』
「まあな。だけどそういう地域が前の世界でもなかったわけじゃねえし、ロカリスがきちんと魔物を倒しているって考えりゃあわからんでもない」
こっちはロカリスからの圧力で手が回っていないか、軍備を整えるため魔物を放置しているかってところも考えられるが。
「ハリヤー、悪ぃが少し急いでくれ! 後で美味いもん食わせてやる!」
俺が叫ぶと『約束ですよ』という感じで初めて高い声でいななき速度を上げてくれた。
魔物襲撃を迎撃して進むこと数日。
ようやくエラトリア王国の城壁が見えてきた。
そこで俺は魔物の奇襲を受けそうになっていた騎士団を救出する。
「僕はニムロス、ニムロス=レンダーという。エラトリア王国の騎士団の一つの団長を務めさせてもらっている」
「あ、わたしはフレーヤと言います! 隊長、早く中へ入らないとまた現れますよ?」
プラヴァスがエラトリア王国に居るといっていた『親友』の名前が確か……ニムロスだったはずだ。
こいつは僥倖。王都に来て早々のラッキーってやつだと握手を交わしながら胸中で笑みを浮かべる。
ついでに声を上げた小柄な騎士を見て俺は口を開く。
「……女の子だったのか」
「失礼ですね!? どこから見てもそうですよ!」
と、軽口を叩きつつニムロスがプラヴァスの親友であることを確認した後に俺が召喚された異世界人であることを伝えて緊張が走る。
こちらに敵意がないことを伝えて武器も渡すことを提案するとニムロスの隣を歩くことを条件に城まで連れて行ってくれることになった。
しかし先ほど女の子扱いされなかった騎士、フレーヤが口を尖らせながら言う。
「リクさんと言いましたっけ? 本当に異世界人なんですか?」
そこで一番分かりやすいのがあるじゃないかと思い、俺はマントの下に隠れているリーチェを呼ぶことにした。
「おい、リーチェ。ちょっと顔出してくれよ」
『大丈夫? まあ、いいなら出るけど』
一番わかりやすい証拠があるかと人工精霊を呼ぶ。前の世界も異世界だしな。
「きゃー! なんですかこれ! ちっちゃい! 可愛い!」
『ぎゃー!!? 潰れるぅぅ!?』
「あ、ごめんなさい!」
被害を受けたリーチェには悪いがこれで概ねその場に居た全員が信じてくれる結果となり話がしやすくなった。
そのまま城下町を観察しながら町を進んでいくと、明らかにロカリス国より寂れている様子が目に入る。
ニムロスに状況を聞いても良かったがここは国のトップに話を聞く方が間違いないかと黙って着いていく。
「少し待っていてくれ」
到着すると部屋で待機を命じられた後、謁見を許可された俺はこの国の王と対面することができることになった。
「いい判断だぜ国王様。よニムロス。剣はお前に渡しておくよ」
「はは、律儀だな。行こう、さっそく情報が欲しいそうだ」
『あ、フレーヤって子は来させないでね!』
「ふふふ、呼びましたか?」
『でたぁぁぁぁ!?』
仲の良い二人はさておきしばらく歩くと謁見の間に
「リク殿をお連れしました」
「おお、早く入ってくれ!」
少し悲壮感が漂う慌てた声が扉の向こうから響くと、ニムロスが重苦しい扉を開けて俺とフレーヤを引き連れて中へ。
長く赤い絨毯が奥まで続き、少しの段差の上に玉座が二つ。そこに顔色の悪い精悍な顔つきの男……恐らく国王が俺達に目を向けていた。
両脇には騎士。
左右で二十ずつってところか。怪しい人間に対する防備としては合格だが、俺相手と考えれば不足だな。不意打ちで半分は殺せる……っと、いけねぇいけねぇ。
「そなたが異世界人と口にした男か? 私の名はゼーンズ。エラトリア国の国王を務めておる。こっちは妻のマドリー。娘二人はまた後で紹介しよう」
そう言って自己紹介するゼーンズと名乗った国王。
得体のしれないヤツを連れてきたのに一家総出で顔を突き合わせるとは甘い連中だという評価を下す俺。
ただ、この国が嫌がらせをして戦争をやるような感じはしないということにも繋がったのだが。
「お初にお目にかかります。俺の名はリク・タカヤナギ。リクと気軽に呼んでください」
「うむ、リクか覚えたぞ。楽にしてよい。して、異世界から来たとのことだが経緯を教えてくれるか?」
挨拶を軽く交わすとゼーンズ王は早速情報の開示を求めてきた。
俺は勇者候補とされている若者と一緒にロカリス国のエピカリスに召喚されたこと、四人中、俺ともう一人が勇者としてではなく間違えて連れてこられたことを告げる。だが俺は力があることと勇者はまだ力をつけている途中ということを伝えた。
「むう、勇者召喚の儀が存在することは知っていたが。魔王に対抗するために呼んだのだろうか?」
「そこがちょいと微妙でしてね、ゼーンズ様。ロカリス国からなにか要求を受けていませんかね? もし良かったらそいつをお伺いできればと思うんですが」
「なにか知っているのか?」
「少しだけ。その情報のすり合わせってやつをやりたくてここまで来たってわけです」
「あなたがロカリスのスパイでないという保証が無いのに教えろと? わたくしたちにメリットがあると思えないのですが」
俺の言葉に王妃が反応し訝しんだ調子で口を開く。
そこで俺の力を示すためお姫様のところまで一足で近づき、その気になればこれくらいは可能だというのと同時に、敵ではないアピールをしておいた。
騎士達の反応は非難する感じのものが多かったが、得体のしれない人物の前に王妃や姫を出すリスクを説いて黙らせておく。
「……もし、もしその力で我々を助けてくれるのなら――」
そう言ってロカリス国との協議内容を教えてくれることになった。
内容はまあブラックといって何の問題もねえレベルのことで、これまで通り野菜や木材の流通をして欲しければ穀物の量を今の3倍寄こせと言って来た。
それを決定するまで輸出量を半減されているのだそうだ。
逆に穀物を輸出しないようにストップしてやればいいと思うが、エラトリア王国は森よりも草原地帯のような広々とした土地の方が多いから木材を完全に止められると厳しい状況とのこと。
肉は魔物を倒せば手に入るが木材は簡単に代用が利かず、野菜も自国の収穫量が少なければ高騰するからな。
そしてそれはロカリス国からの要求でエラトリア王国にとっては脅迫されているのと同義。
エピカリスの姫さんが黒ってことで確実。ダメ押しでゼーンズ王に書状を見せてもらったが俺を騙すための偽物って感じでも無さそうだった。すぐに用意できるようなものでもないしな。
そもそもの話として姫さんの言うことと、ロカリス国の状況がチグハグだったからほぼエラトリア国を信じていいだろう。
とりあえず俺はこっちの味方になることにするとして、次の手を考えないといけねえな。
後は魔族について。
エピカリスは途中から『協議』のことばかりを言っていたが、風太達に説明する時、確かに『魔王に操られている隣国を倒してほしい』と話していた。
そのことを告げると騎士達とゼーンズ王が明らかに怒りを露わにし激昂する。
そこでロカリス国との国交について会議をするということで俺は一旦お払い箱に。
エラトリア王国側に非が無いことが分かったので次のプランを考える必要があるのでありがたい。
手助けをするのはやぶさかではないが、俺や高校生組はあくまでも異世界の客。この世界のことはこの世界の人間でなんとかするのが筋だと考えている。
ま、条件次第ってところだ。
さて、後はロカリス国が魔族に脅されている可能性もあるが……それだと勇者を召喚する理由が分からない。天敵を呼ぶことになるからな。
「この部屋でゆっくりしていてくれるかい?」
「サンキュー。なんかあったら呼んでくれ」
ひとまずあてがわれた部屋で情報の整理……と言いたいところだが収穫はそれほど多くない。エピカリスが当面の敵ってことがハッキリ分かっただけでも十分ではあるが。
そうなると後は風太達を連れて逃げるだけなんだが問題がある。
もちろんあいつらが簡単に逃がしてくれるかどうかだ。
エラトリア国を倒した後は魔王との戦いに備えなければならないわけで、そのために『勇者』を召喚したんだから当然だ。そこで水樹ちゃんを使おうとすると踏んでいる。
一番いいのは戦争をさせない、もしくは戦争中に辞めさせる、最悪は戦いの最中に三人を連れて逃げるという三つから一つ選ぶことだろう。
水樹ちゃんを戦場に出すとは思えないから三つ目の案は、まあ難しいだろうな。
「むう……」
「難しい顔をしていますねえ」
『あんたはなんで部屋に居るのよ……』
「そりゃ監視役ですからね! 団長直々の依頼、これは頑張ったらご褒美が――」
と、人が考え事をしているところに何故か部屋に残ったフレーヤがドヤ顔でそんなことをいう。
そんな彼女をからかってやると、不意に表情を曇らせて一言呟く。
「……戦争、始まってしまうんですかね」
「……」
まあ、不安だったんだろうなこいつも。
魔物とやたら戦わされる現状。そんな中で隣国と戦争だなんて言われたらそうなるのも無理はねえ。
そして同じ騎士団連中にそんなことは言えねえから俺にってところか。初対面の男に話すくらいだからさっきの謁見で精神的に追い詰められたのかもしれねえな。
「いいからあんま考えるな。こればっかりはなるようにしかならねえよ」
「はい……」
と、俯いてから何故か戻って来て俺の寝転がっているソファに座った。
「外で騎士と待ってろって」
「もうちょっとだけ、リーチェたんと……!!」
『仕方ないわねえ』
ハリヤーほどではないが気が利く人工精霊も頭に乗り、適当な会話をしていると眠ってしまったのでフレーヤをベッドに寝かしつけてから、適当に歯を磨いて俺もソファで眠る。
さて、どうするかと決まらない先のことを考えていると、いつの間にか眠っていた。
そして――
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