第一巻:~魔族 強襲と戦闘~


「……!?」

『な、なに、今の音!?』


 物凄い地響き音と振動で俺とリーチェは飛び起きる。

 ベッドに目を向けるとフレーヤも目が覚めたようで、冷や汗をかいて座っている……が、怯えているようにも見えた。


 俺とリーチェが顔を見合わせていると、部屋の外で見張っていた騎士達から魔族の強襲だという会話が聞こえてきた。


「……よし。魔族の顔を拝んでやるか」

「わ、わたしも……い、行かないと……」

『顔が真っ青よ? ここに居た方がいいんじゃない?』


 俺はこっちの世界の魔族がどういった存在か一度見ておくかと腰を上げる。震えるフレーヤが装備を整えて部屋を飛び出したので俺もそれに続く。

 途中お姫様とすれ違い屋上でゼーンズ王が魔族と対峙していると聞いてすぐに向かう。


「っとその前に」

「顔を隠すんですか?」

「まあな。ここでのことが無くなっても顔が割れるのは避けてえ。目だけならバレねえだろ」

『屋上よ!』

「あいつらはいつも屋上で交渉を仕掛けてくるんです……! 行きます!」


 口ぶりからすると何度もここに現れているって感じがする。

 

 ――魔族


 俺が前の世界で戦った奴らは人型の二足歩行で人間に近い者から、いわゆる悪魔みたい頭が動物のようなのが居た。人間に近い形をしている方が偉く力も強い。

 さらに賢いヤツも多数居て、人間のフリをして溶け込んでいるなど様々だ。


 俺はそっと陰から様子を伺う。なるほどそれらしいやつが立っていた。


 青白い顔に少し尖った耳で、胸がある。

 女性タイプの魔族で切れ長の目はなかなか美人ではあるが性格の悪そうな顔つきだ。さらに両脇に立つごつい魔族のインパクトも凄い。

 

「懲りずにまた来たのか。わ、私は貴様等には屈したりしない!」

【フフフ、強がりを……私達の傘下になれば力を与えてやるというのにな? そうすれば隣国を亡ぼして領地改革が出来るぞ? まあ、魔王様に娘を差し出す必要はあるが等価交換というやつだね】

「可愛い娘を差し出すなどあり得ん……!」

「陛下、魔族の言うことに耳を傾ける必要はありません、お下がりください!」

「仕掛けるぞ、騎士達は取り巻きを叩け!」


 ニムロスと別の騎士団の合図で戦闘が開始される。

 エラトリア王国の騎士達の練度は悪くなく、見た目ごつい魔族……レッサーデビルという個体相手に後れを取ることなく確実に倒していた。

 しかし女魔族が新たにレッサーデビルを生み出すため近づくことが困難のようだ。


【あら、今日も決裂かしらぁ……なら、また痛い目を受けてもらうわね!!】


 女魔族は口を大きく開けて笑いながら黒い羽を広げて少し浮く。

 飛べるタイプか、厄介だなと分析する俺。


 ニムロス達はレッサーデビルを倒せているが、女魔族が空中から魔法らしき攻撃を仕掛けてきたので被害は徐々に増えていく。


『た、助けないと!』

「……こいつらのやるべきことだ。まだ、早い」


「はあ……はあ……ま、負けるもんか」

「焦るなフレーヤ、確実に倒すぞ……!」

【フフフ……相変わらず強いわね】

「いつもみたいに尻尾を捲いて帰るがいい、陛下の言う通り、我々は屈しない!」


 ニムロスが一体目の魔族を斬り伏せて剣を女に向けると、スッと真顔になり、手を上に掲げて口を開く。


【<ゲヘナフレア>】

「な!?」

 

 拳ほどの大きさをした炎の塊が嵐のように降り注ぎ

 鎧兜があるので絶命とまではいかないが逆転するには十分すぎる一発を食らい、全員……いや、ゼーンズ王以外は地面に伏していた。


「わ、私だけ無事、だと?」

【生意気な口を利くからよ。騎士達はそこで這いつくばっていなさい、わからずやの王様。フフ、両腕を失っても粋がっていられるかしらねぇ】


 瞬間、女魔族の指先から光が走りゼーンズ王の太ももを貫いていた。

 

「ぐ、あああああああああ!?」

【あ、ごめん間違えちゃったぁ♪ ま、折角だし私の手で腕をねじ切ってあげましょうか】


 これ以上は無理だと判断した俺は飛び出した。


「や、やらせませ……ん!」

【貴様……!?】


 近くで倒れていたフレーヤが急に起き上がり、剣を女魔族の腕に突き刺していた。

 

【血……血が出ている? ……小娘が! この私の肌に傷をぉぉぉぉぉぉ!?】

「あ……?」


 俺が駆けつけるよりも早く、女魔族の手刀がフレーヤの胸を貫いていた。

 マズい。

 そう判断した俺はすぐに女魔族を蹴り飛ばして回復魔法を使いフレーヤの治療をする。死を免れたことを確認し安堵していると戦闘を開始。


【くっ、この私を吹き飛ばすとは……! 貴様はなんだ……?】

「……」


 無言で攻撃を仕掛ける俺。

 本気でかかれば倒せるかという実力のようで、いちいちこっちの強さに驚いてくれる。底はあまり深くないな?


 だが、情報を聞き出すために活かして捕らえるつもりだったが時間をかけ過ぎたため女魔族が撤退を決め込んで空へと浮かぶ。


「……お前は魔王直下の者か?」

【ええ、ご名答。私の名は魔闇妃アキラス。魔王様直属の魔族。ここから逃げなかったら、またここで会えるわ――】


 と、妖艶な笑みを浮かべた瞬間、強大な魔力を帯びた魔法を放ちながら撤退するアキラス。

 それをリーチェと二人で魔妖精の盾シルフィーガードの魔法を使ってガードしゼーンズ王やニムロス達を守り、初対戦は幕を閉じた。


『良かったの逃がして? 全力で魔法を使えば倒せたんじゃない?』


 情報も欲しいため泳がせておくとリーチェへ伝えると、一応の納得をする。

 そのままその場に居た騎士を治療し、他にも重傷者が多数いたので出来る限りの回復魔法を施し再起は不可能だろうと言われるような大怪我も直して回り、俺は感謝された。


 それが終わり遅くなった朝食、もとい昼食をいただきゆっくり魔力を回復していると再び謁見の間へ呼び出される。

 話の内容は至極単純で協力の取り付けだった。


「君は勇者ではないと言っていたが、先の戦いを見る限り恐らくここに居る誰よりも強い。どうだろう、一緒に魔族と戦ってはもらえないだろうか?」

「それで俺になにかメリットはありますかね?」


 今朝の戦いで助けてもらったのもあって物腰柔らかく話をしてきたが、俺はそれをあっさりと突っ返す。

 言うは易し、行うは難しってな。

 俺が『はい、いいですよ!』という人間じゃねえのは承知の通り。こっちも命を張るわけだし、俺が言う前に見返りくらいは提示すべきだと思う。


 交渉事は自分の都合で相手に依頼をするわけだが、それを相手に握らせるのは愚策でしかない。無理難題をふっかけて徐々にすり合わせていく……なんてやり方を使うくらいはしないと逆にとんでもないことを要求されるもんだ。


 それを指摘すると口をつぐむゼーンズ王と騎士達。

 本音は『関わらない』のが一番だと考えているが、積極的にやらないだけであって協力するのは構わない。

 だが、おんぶに抱っこではこいつらの為にならねえ。今の魔族を追い払ったとしてもその次、さらに次と脅威は魔王が居なくなるまで無くならない。


 金も名誉も必要ない『異世界人』へ『現地人』ができることはそう多くないが――


「リク殿! 待ってくれ、取り急ぎ提案をしたい。聞いてくれるか?」


 そして口にした提案。

 それは魔族と戦うことを了承してくれれば元の世界へ戻るための調査をするというものだった。それと風太達、高校生組を連れてきた場合、衣食住は保証してくれるとのこと。

 金は今、俺がそれなりに持っているし、地位に興味が無い異世界人相手にできることは少ない。なので提案としては悪くない内容だ。

 結局、どこかでアキラスはどうにかしないといけないのは確実だから、足場は欲しい。

 その話を聞いた後、ゼーンズ王にロカリス国との交渉はさっさと破棄して戦争準備をするように進言する。


「……そうだな。これ以上長引かせても無意味か。魔族の動向は気になるが、エピカリス姫はどうしても要求を変える気は無さそうだからな」

「それがいい。向こうはどうしても戦争を従っている感じがするからな――」


 それから今後の計画を騎士団長達である、ニムロス、ジェイガン、ザナッシュ、ワイラーの四人とゼーンズ王が話し合い、俺は風太達の救出とあわよくばエピカリスを止めるためにロカリス国へ戻ることを告げる。


 そんな中、ワイラーという騎士団長とひと悶着あったが、まあお互いを理解し大事なものを預け合って生き残ろうと挨拶を交わす。

 甘い性格の多いエラトリアの人間達だ、怪しい異世界人に突っかかってくるくらいのヤツは必要だろう。


「悪いが一緒に来てもらうぞフレーヤ」

「は、はい……! あ、でもその前にお父さんとお母さんと話をしておきたいかも……」


 後は監視役と水樹ちゃんと夏那のケアをするためにロカリスに戻る際、フレーヤを借りることにした。


「それじゃまたな」

「僕達が無事ならね。プラヴァスによろしく言っておいてくれ」

「ああ。俺が姫さんを抑えるまで耐えてくれよ」


 ニムロスとはそれだけ言葉を交わして別れる。

 ここまでに色々と話して来たし、今さら詰めて語るようなこともないからな。

 できれば親友同士の戦いなんてのは見たくねえし、早いところ姫さんを問い詰めたいところだ。


 ハリヤーの手綱を軽快に動かして走らせていると、リーチェが俺の懐から顔を出して口を開く。


『来た時よりも速くない? 二人乗りなのに』

「ハリヤーには悪ぃが、向こうも準備を整えて兵を出しているはずだから急いで戻りたい。もちろん数時間ごとに休憩は取って傷を治す」

「頑張ってくださいね!」


 フレーヤに首筋をポンポンと叩かれて『頑張ります』とばかりに声を上げる。若い馬より年寄りの方がこういう時は頼りになる。我儘を言わねえからな。


 帰りは少し賑やかになった道中をハリヤーが軽快に歩を進め、ロカリス国内へと戻る。

 やはり魔物と遭遇することなく移動できることに違和感を覚え、それと同時にある疑惑が確実なものへと変わっていく。

 そんな中、キャンプをした夜に風太へ連絡をすると――


「リクさん!」

 「おおう!?」


 速攻で風太の大声が聞こえてきて、俺はスマホを耳から離す。

 だが慌てた様子にそんなことをしている場合じゃねえとすぐに口を開く俺。


 「風太か、そんなに慌ててどうした? エピカリスが動いたか?」

 「分かるんですね……。ええ、エラトリア国へ出兵するとさっきヨーム大臣から通達がありました」

 「まあ、想定通りだな」

 「ちょっと、止めるためにそっち行ったんじゃなかったの!?」


 俺が神妙な調子で言うと、夏那が怒鳴りこんできた。

 そこも想定内なのでスマホから耳を離していたのは内緒である。


 「おいおい、俺みたいなおっさんが戦争を止められると思ってんのか? 状況の真偽を確かめるためだっつったろ」

 「結局、この流れは変えられないんですね……」

 「そうだ水樹ちゃん。結局、この世界の人間の始末は現地人でするしかねえ。俺が一国の王とかならできるかもしれねえが、三人の学生と一緒に異世界へ来たおっさんだ。助言はできるが、解決までは難しいってな」

 「こういうこと、昔にもあったんですか……?」


 おっと、口が滑ったな。

 いや、本心ではあるが別にこいつらに聞かせる必要はねえしな。せめてことが済むまでは。

 とりあえず風太の話を聞くとしますかね。

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