159.種族間の違いはあるものの


 ハリソンとソアラを急かしてエルフの森を早足で駆け抜けていく。

 リーチェが集落の場所を覚えているようなので迎えは必要ないが、ひとつ問題がある。


 「こいつはどうするの?」

 【奴隷並みの扱い!?】


 夏那がレスバの頬を引っ張りながら俺に問う。

 そう、エルフの集落にこいつを連れていくわけにはいかないのでどうしようかと悩んでいるところだ。

 世界樹関連のことはリーチェが居ないといけないし、できれば俺も立ち会いたいと考えているが、見張りを立てないわけにはいかないんだよな。

 それを三人に任せることも出来るがなにかあった時にすぐ対応ができないのは困る……。


 仕方ねえか。……ついでにひとつ手を打とう。


 「リーチェ、集落の近くに来たら教えてくれ。あくまでもこいつに知られない場所でな」

 『はいはーい。で、どうするの?』

 「今から話すよ。とはいってもやることはそんなに難しくない。お前と三人で集落へ行ってくれ、俺はこいつの監視をする」

 「えっと、世界樹にはリクさんが立ち会った方がいいんじゃないですか?」


 水樹ちゃんがありがたいことを言ってくれるが、首を振って話を続ける。


 「その通りだが、エルフの集落の内と外では危険度が違う。こいつを追って別の魔族が来た場合を考えて、俺の方がいいだろう。だから世界樹のことは三人に任せることにした」

 「僕達だけで大丈夫ですかね……?」

 「いいんじゃない? あのグラジールってやつを見る限り、将軍クラスの敵が来たらあたし達じゃちょっと荷が重い気がするし。その代わりリーチェと世界樹の声をしっかり聴けばいいもの」

 「頼む。俺はこいつを拷問して待つ」

 【ひぃっ!? 口では言えないことをされてしまうんですね!? あいた!】

 『しないわよ! 磔にして放置はダメなの?』

 「まあ意思疎通ができるしな」

 

 相変わらず手厳しいリーチェに苦笑しながら返すとレスバが舌打ちをしながらリーチェを睨みつけて口を開く。


 【あのチビ調子に乗ってますね……! わたしの真の力をもってすれば……ぎゃああああ目がぁぁ!?】

 『口の利き方に気をつけることね』

 「魔族ってアキラスみたいなのばかりかと思ったけど私達に近いですね」

 

 目を突かれて転げまわるレスバを見て困惑する水樹ちゃんに、すぐ復活したレスバが口をへの字にして返す。


 【生活習慣の違いはあれどだいたい似たようなものですからね。他種族……エルフなどと同じようなものだと思えばわかりやすいでしょう?】

 「それは……まあ……」

 「あんたの言いたいことも分かるけどね。人間同士だって戦うわけだし、種族対立もあってしかるべきよ」


 地球でもそれは同じことだからな。

 嘘か誠か。まだ確定ではないが、リーチェ以外は魔族も被害者であることを気にしているようだな。

 

 ただ俺には疑問が残る。

 セイヴァーが同一存在なら人間を倒そうとするのは分かる。が、レスバの話だと人間の前に呼ばれた際に依頼を断った点だ。話がわかるヤツなら、どうして前の世界で戦争を仕掛けた?


 『――ク』


 リーチェが魔族に対して辛辣なのは戦争でかなりの犠牲者が居たからだ。話の通じない相手……それが魔族という種族だったんだが――


 『リーク! そろそろ到着するわよ!』

 「ん、そうか。ならここで俺とレスバは降りるぜ」

 【ああ……ついにこの時が……おばあちゃん、最後に会いた……かった……】

 「なに言ってんのよ。グラジールみたいに人を犯したりしないわよリクは」

 

 馬車が止まり、呆れながらレスバを夏那が立ち上がらせる。水樹ちゃんも手伝い、両脇を抱えられる形で女の子三人が外へ。

 俺も荷台から降りてレスバを預かりリーチェへ言う。


 「あとは頼んだぜリーチェ。精霊の声を聴いて世界樹の状態を調べてくれ」

 『オッケー。馬車はいいの?』

 「ああ。あ、そうだファングをこっちに返してもらうよう言ってもらえるか?」

 「いいけど、あの子が泣きそうじゃない?」

 「そこはなんとか女子力でカバーしてくれ」


 俺が笑って言うと夏那が肩を竦めてわかったと返事をする。とりあえずロディ達の誰かが連れてきてくれれば問題ないと付け加えて馬車を見送った。

 

 「さて、と」

 【う……】


 縛られているレスバをチラ見した後、俺はテントの設営と焚火の準備を進めていく。それを黙ってみていたレスバがぽつりとつぶやく。


 【……襲わないんですか? グラジール様はあの人間を壊したのに……】

 「夏那も言っていたが俺はそういうのはしないぞ? フェリスは自業自得なところもあったしな。というかやっぱり洗脳されかかっていたのか。言動と行動が一致しないあたりそうだとは思っていたけどよ」

 【……アキラス様とレムニティ様、グラジール様が倒され、リクさん達はセイヴァー様をも倒すんですか?】

 「場合によってはな。話が通じる相手というなら交渉することもできるだろ。お前を生かしているのはそれもあるし」

 【エッチなことをするのが目的だとばかり】

 「して欲しいならやってもいいが?」


 俺がにやりと笑うと首がちぎれそうな勢いで振っていた。そんなつもりはまったくないが脅しといたらいいだろう。

 

 【冗談はともかく、あなた方みたいな人間なら良かったんですがねえ。あのイケメン勇者は悪くないですしグフフ】

 「あいつはお前みたいな調子のいいやつが嫌いらしいぞ」

 【なにもしていないの振られた……! そういえば冷たい視線を感じましたね……】

 「ま、そこで寝転がっているのもあれだろ。テントに行くか?」

 【いえ、もう少しお話がしたいですね。おばあちゃんへ土産話を】

 「マジでいるのか?」


 ずっとそう言っているが魔族の群衆を前の世界でも見たことが無いのでこの点は訝しんでいた。だが、レスバは特に慌てもせずに話し出す。


 【いますよ。魔王様以下、将軍クラスや私のようにそれなりに戦える魔族は島の防衛と亡ぼした国を往復し、島には魔族の集落がありますよ】

 「いいのかそんな重要なことを話して?」

 【まあ、リクさんは常識がありそうなので。……それと】

 「ん?」

 【いえ……なんでもありません。とりあえず……ご飯を……ください……】

 「我儘な捕虜だぜ」


 俺は仕方ないと串焼きの準備をする。

 こんな話をしているものの、フェリスがどうなっているか気がかりで仕方ない。あいつ自身がどうこうというより、俺達のことが伝わってしまったかどうかが問題なんだが。

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