158.卵が先かニワトリが先か……ってな


 フェリスが消えてしまいグランシア神聖国に戻る必要が無くなったが、代わりに捕まえた女魔族からなにか得られないかと今はエルフの森の浅いところで簀巻きにして吊るす。


 まあ夏那が相当怒っていて、殆ど俺達の手を使うことなく女魔族はあっという間に吊るされていたわけだが。


 「リクさん、急いだ方がいいんじゃないですか? 僕達のことが向こうに知られる可能性が高くなりましたし」

 『風太の言う通りね。早く首を刎ねちゃわない?』

 「そうね」

 「ちょっと、二人共。情報を得てからでも遅くないんじゃない?」

 「満場一致で処分って気持ちは分かるが、まずは話を聞いてみるぞ。まずは名前から聞かせろ」

 【……】

 「だんまりは即死でいいわよね……?」


 夏那が槍を鼻先に当てて笑い、俺がため息を吐きながら彼女を後ろにやる。

 すでにこいつは覚悟を決めているだろうからなにも言わない可能性が高い。脅迫は無駄だろう。


 ならば――


 「おい、お前達のことを喋るなら生かしてやってもいい。その居るかどうか分からないおばあちゃんとやらも生かしてやろう。俺達は勇者で魔王ともども魔族を絶滅させるつもりだったがな」

 【それは……】


 顔をあげて俺を見る。

 まあ、セイヴァーの下へ行くまでこいつはフェリスの代わりに連れまわすつもりだがな。人質や盾としての効果は無いが、もし身内が居るというなら簡単には裏切れないだろう。

 もう一つ、風太達にも隠していることもあるしそれと合わせていずれ役に立つかもしれないと考えている。


 【裏切れ、と?】

 「そうだ。どうせグラジールが生きていたとしてもお前のような部下は使い捨てだろ? だからこそフェリスとグラジールの情事を知っていて、かつ、なにかあった際は身を挺してでも転移させろと命令されていたんだろ?」

 「さっき死ぬのを嫌がってましたけど……」

 「演技だろ?」

 【いえ、死にたくありませんから話します】

 『変わり身が早い奴は信用できないわ』

 「リーチェちゃんって魔族には容赦ないよね」


 水樹ちゃんがリーチェを見ながら肩を竦めていると女魔族は身体をじたばたさせながら叫び出す。


 【じゃあどうしろって言うんですか!? 話しますから、殺さないでくださいよ?】

 「ああ、約束しよう。嘘を吐いたりしたらその限りではないけどな」

 【やっぱり人間は怖いですねえ……。わたしの名前はレスバ、以後お見知りおきを】

 

 その言葉に頷くとレスバは話を続ける。


 【なんの話を聞きたいですかね? ぶっちゃけグラジール将軍があそこまであっさり殺されるとなると魔族で太刀打ちできるのは魔王様くらいだと思いますよ?】

 「それは否定しねえよ。セイヴァーのことは良く知っている。多分、この四人でかかればすぐだろうな。だが、そこはとりあえず置いとくとして……お前達が滅ぼした国が先に仕掛けたというのは本当か?」

 「そういえばそんなことを言ってたわね。どういうことなの?」


 少し落ち着いたらしい夏那が槍を肩に置いて眉を顰めると、レスバも眉を曲げながら口を開く。それは最初の段階ですでにすれ違っている話となる。


 【……信じてもらえないとは思います。わたしもまた聞きというやつなのでハイアラート様などのほうが詳しいですが、滅ぼされた国である"ミラグルシア国”の人間達が魔王様を召喚したところから始まります】

 「魔王を召喚ってなにを考えていたんだろう……」

 「……」


 風太が嫌悪感を顔に出すが、さっきの考察からするとお互い様なところはある。

 で、知っている内容をまとめると、セイヴァーが召喚されて人間から依頼があったが内容は大陸の支配をするため力を貸せと言ってきたらしい。

 

 「世界征服って……」

 「気持ちは分かるがそれほど荒唐無稽って話でもないんだ水樹ちゃん。ヴァッフェ帝国のクラオーレ陛下も魔族が来なければ統一国家を作るつもりだったろ?」

 「そういえばそんな話もありました。いい人でしたから失念していましたけど野心家だったんですよね」

 「統一することでメリットもあるから悪い話じゃないんだが……すまん、続けてくれ」

 【はい。で、魔王様は召喚の時に負ったのか酷いケガをしたことと、人間に関わるのは嫌だと拒否をしたそうです。それを良しとしなかった国が無理やり従わせようと襲ったらしいんです】

 「なるほど……」


 ケガをしているならいくら強力な魔王とはいえ捕まえられるとふんだのだろう。そこから隷属契約でも無理やりすれば戦闘奴隷が出来上がるしな。

 

 「だが、仲間を生み出し反攻に出たってわけか」

 【ハイアラート様はそうおっしゃっていましたね。そこから人間を潰して大陸を奪おうと行動を開始したというわけです】

 「あなた達って人間の悪意とかを心地よく感じて食料にするってアキラスが言っていたけど、滅ぼしたら搾取できないんじゃ?」

 【『それ』自体は食料にはなりませんからね。やはりきちんと野菜や肉を食べるのが一番です。まあ、おやつみたいなものです】

 「人間を食べるのよね……?」

 【場合によっては。さすがに意思疎通できる者を好んでは食べませんけどね、レッサーデビルに死体を食わせたりすることは多いですが。というか人間が家畜や魔物を食べているのと同じですから、これは種族の意識違いかと】

 

 納得しがたいが確かに種族の違いと言われればそれはあると思う。生き物を食べるという意味では等しく同じだからだ。


 「むう……」

 「こうやって話すとアキラスとグラジールが特殊な感じもしますね。レムニティもそこまで悪いって感じじゃなかったですし……」

 「そうだな。鍵はセイヴァーか、むしろ会いに行く必要性が高まったな」

 「魔族の敵はもうすでに滅んでいて、残りは八つ当たり。で、人間側は勘違いで魔族と戦う、か。そりゃ魔族側からしたら王様を侮辱されたんだから牙をむくのも当然か」


 さらに言うとエルフ達と人間に確執が生まれたのはそれこそフェリスみたいな国の生き残りが戦争に参加していてエルフを盾にした奴等が……という邪推もできるか。


 【各地を襲っているのは将軍達の仲たがいもありますけど、一番はやっぱり各国の足止めですかね」

 「それじゃ、アキラスが僕達勇者を洗脳して先兵にしようとしていたのは……」

 【アキラス様に? 洗脳するにもリスクがありますけどなんでまた……?】


 そこは同族でもやっぱおかしいと思うのか。

 

 ま、なんにせよ――


 「さっさとセイヴァーの下へ行くのが良さそうだな。世界樹の話を聞いて聖木をもらうとしよう。帝国へ戻る途中に婆さんに報告しておこう」

 「各国に通達はしなくていいんですか?」

 「いい。もう始まっちまっているからどうしようもない。人間を止めても魔族側を止めることができないから、膠着状態にしている間にセイヴァーの下へ行く」

 『前の世界とはかなり違ってきたわねえ。レムニティもグラジールもリクを知らないって言うし、セイヴァーも別世界のそっくりさんだったりして』

 「ええー? それはないでしょ」

 

 リーチェと夏那が笑うがあり得ない話でもないんだよな……。

 結局、最短は魔王の下か。前の世界みたいに国に仕えなかったせいでかなり時間は短縮されているのが幸いか。


 とりあえずエルフ達にも報告するかと俺達は再び森の中へ――

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