156.次に行く前に禍根を断つ必要があるんだが……
俺達はフェリスが立ち寄りグラジールが潜伏していたらしい町へと向かい、一日かけて到着することができた。これでも急いだ方だが予想が正しければ状況はあまり良くない。
「リク、あれ!」
「だろうな。ハリソン、ソアラもう少し急げるか?」
その言葉を受けてから『いけます』といった感じで速度を上げてくれる二頭。隣に座る夏那が見たのは町の方で上がる煙だ。鍛冶屋や銭湯などで煙はあり得なくないが規模が違ったからこれは間違いなく魔族……レッサーデビルが暴れているはずだ。
「アキラスを倒した後、プラヴァスさんとフレーヤさんが魔族化したレゾナントと戦ったと言っていましたね」
「ああ。最後の嫌がらせってやつだ」
レムニティは変な話だが堂々と正面から来るようなヤツだったから潜伏をしていないが、アキラスやグラジールのようなあからさまな魔族というのは恐怖を与えるために『仕込む』ことが多々ある。
ヨームやレゾナント、城の人間がレッサーデビルに返られたり、ボルタニア国を脅迫に近い協力をさせていたのも記憶に新しい。
「くそ、どれだけ入り込んでいるんだ!?」
「よう、門番さんよお困りだな」
「なんだ、冒険者か!? 見ての通りだ! 手伝ってくれ!」
「あいよ……!」
俺は目の前に現れたレッサーデビルを切り裂き御者台から飛び降りて駆けだしていく。
やはり魔族に変えられた人間が居たようで、グラジールと町で出会ったと聞いた時点でこの結果はほぼ予想通りというわけだ。
「僕も行きます!」
「相手は魔族に変えられた人間だぞ、できるのか?」
「……やります」
「あたしと水樹は入ってからフェリスの監視とハリソン達の護衛に回るわ」
「任せるぜ。なにかあったらスマホで呼んでくれ! 行くぞ風太、無理だけはするなよ」
横に並ぶ風太が頷きながら剣を抜くのが見え、表情を確認すると冷や汗をかいているもののロカリスの決戦と比べたらかなりの成長を見て取れるな。
「悪いな、死んでもらうぜ……」
「行くぞ……!」
先行は俺で、おっさんを締め上げていたレッサーデビルの首を落として救出。その近くで風太が腕を切り落としてから首を剣で突き刺し絶命させていた。
「あ、ありがとう……! しかし、こいつも誰かだったかと思うと……」
「考えるなおっさん。次行くぞ」
「……はい!」
頬を片手で叩きながら身を低くして走る風太。……結局こうなっちまうのは俺の力不足か。セイヴァーを倒すまでやっぱり戻れないものなのかねえ……。
「はああ! <ゲイルスラッシャー>」
【グオォァァァァ!?】
とはいえ覚悟を決めたと宣言をしたあいつらを止める理由も無い、か。船を手に入れたら戦いは激化するはずだし、残りの幹部に気づかれないよう一気にセイヴァーのところまで行くのが一番いいと考えている。
ま、それはともかく今は町を救うことが先決か。そう考え、目の前のことを片付けていく。
「こいつ……!!」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうお兄ちゃん!」
「早く家の中へ! リクさん、これで町の半分は回ったかな?」
親子を襲おうとしていたレッサーデビルを切り倒して汗をぬぐう風太に俺は頷いて大通りに目を向けて返事をする。
「だいたいそんな感じと思っていいだろ。冒険者も居るだろうし中央へ行って合流するか」
さらに中央へ移動するとレッサーデビルと戦う冒険者と遭遇。すぐに援護に入るとその中の一人から声をかけられた。
「見ない顔だな、来たばかりか? 悪いが広場の援護を頼む! あっちに固まっているんだ」
「オッケー」
そんな調子で遊撃に回ること三十分。
短いようだが緊張の中だと一時間にも二時間にも感じるものだ。その証拠に風太はかなり消耗していた。
「はあ……はあ……。お、終わった?」
「ああ。頑張ったな風太」
「はああ……き、きつい……魔物との戦いや副幹部とも戦ったのに……」
「あの時は三人でやってたからだろうな。それにレッサーデビルも町の人間が変えられていると考えたら緊張も倍増する。上出来だと思うぞ」
その場にへたり込んだ風太の頭に手を乗せてそう言うと照れながら鼻の頭を掻いていた。
さて、ウチのエースの成長が見れたのとこれで懸念の一つは解決できたのですぐに馬車へと戻ることにしよう。
「あ、おい! あんたらどこ行くんだ? 活躍していたろ、報酬とかあるはずだぞ」
「いや、町の人間を倒してもらう金ってのもちょっとやりきれねえから辞退するよ。やることもあるし」
「……知ってたのか。どこで潜り込んでいたのかわからんが、その通りだ」
「注意するのは難しいからな。それじゃ片づけは手伝えないから後は頼むよ」
俺が手をあげて踵を返すと男達は『助かったよ』と礼を言って挨拶を返してくれた。冒険者は流れ者が多いからまだ気は楽だったのかもなと思いつつ夏那と水樹ちゃんのところへ戻る。
グラジールの部下が居なかったのが気になるが……居ない者は仕方がない――
◆ ◇ ◆
「あ、戻ってきたわ」
「おかえりなさい、どうでした?」
「後味は相変わらず悪いが、なんとなったよ。こっちはどうだ?」
「レッサーデビルが二体ってところね。水樹の矢で足止めしてあたしがトドメって感じ!」
『まあわたしが防御魔法をかけているから余裕よね!』
馬車に戻ると無事な四人を見て安堵する俺。
リーチェを残していたので問題はないとは思っても女の子だけ残しているので目は話したくないものだ。
「で、これからどうするの? フェリスを引き渡す?」
「いや、一度は婆さんに引き渡す。だからこのままグランシア神聖国へ行く」
「まあ僕達が行った方が確実ですしね」
「異論はないです!」
「今度は逃がさないようにしてもらわないとね」
『拷問しようそうしよう!』
「くっ……」
盛り上がる夏那とリーチェの頭を軽く小突いてから俺は少し考えていたことを口にする。
「エルフから世界樹の聖木を譲ってもらったらこいつを回収してヴァッフェ帝国に行くぞ。考えた結果だが、フェリスを放置しておくとまたよからぬ感じになりそうだ。だったら一緒に置いていた方がいいと思う」
「マジで!?」
「ああ、マジだ。魔族を倒したいという意気込みは買えるし、死を恐れない上に行動力もある。ちゃんと鍛えればその辺の冒険者くらいにはなるだろう」
「リクさん……」
フェリスが意外だと言った目で俺を見てきたところでリーチェが俺に尋ねてくる。
『本音は?』
「今すぐ首を刎ねて始末したい」
「ひっ……!?」
「それはちょっと……」
「水樹ちゃんには悪いが、こいつの行動は今のところ悪手でしかない。レムニティは逃がしたが倒したし、エルフの子も助かったが一歩間違えれば集落はグラジールによって全滅。聖木を手に入れられなかった可能性が高いんだ。……わかってんのか? ああ?」
「あが……!? ご、ごめんなさい……!?」
「冷静に思い返すと謝ってすむ問題じゃないな……」
風太が珍しく嫌悪した顔でフェリスを見て針の筵になった。
「……もし、連れて行ってくれるなら勝手な真似はしないわ……魔王のところへ行って死ぬなら本望よ」
「絶対だぞ? 一応、言っておくが次は無い。不利を被った時点で死んでもらう」
『裏切者には容赦しないわよリクは』
俺の言葉にフェリスはいつもの横柄な態度はなりを潜め、喉を鳴らしながら小さく頷いた。
「……よし。なら今から移送する。大人しくしておけよ」
「わかったわ……」
「大丈夫かしら……」
夏那の気持ちも分かるが、知らないところで邪魔されるくらいなら目の前に置いていた方がいい典型だからなこいつは。
馬車を走らせて町を出たところで重い空気の中、フェリスがおどおどしながら口を開く。
「リクさんは……魔族に詳しいから聞いておきたいんだけど……」
「なんだ?」
「その、私……あの男に襲われた……の。冷静になってきたら急に怖く――」
「マジか……! てことはヤツの精を!」
こくりと頷くフェリス。
だとしたら……こいつにとって最悪の事態になる。そう思った瞬間、それは起きた。
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