155.考えられる状況の中で最悪になるかもしれないと考える
「……まさか魔族と人間が森を焼き払おうとしていたとは」
「すみません……」
「あ、いや、勇者殿が謝ることではありません。人間にも色々な者がいるというのは理解しているつもりですし、リク殿が居なければ危なかったと思うので」
「フェリスがこんなところにいるとは思わなかったわ。あいつ、ほんっっっとに迷惑しかかけない!! 絶対出られない牢屋とかないかしら」
夏那ちゃんが手をわきわきさせながら怒りの声をあげる。
私達は馬車を持ってくるため村へ戻っているところだけど、ロディさんが明らかに不満気な顔で先ほどのことについて口をつく。
本当、まさかだったよね……。それにリクさんがあそこまで危険視する相手というのも初めて見た。
『ここまで悪手を続けるなら逆がいいかもね』
「逆?」
『そ、魔王討伐の旅に連れまわすのよ。邪魔されるくらいなら戦わせた方がいいでしょ、レッサーデビル相手でも勝てるか怪しいけど戦わせてあげた方があの子にとってストレスはないんじゃないかなって』
「あー」
リーチェちゃんが人差し指を立てながらそんなことを言い、なんとなく分かるなと感じた。私も家では窮屈な状態を強いられていたから自由になったこの世界は案外、楽しい。
それはともかく『ダメだから』とか『お前には無理だ』と言われ続け、それに反論をし続けても知らない間にストレスになっていることがあるのかもしれない。
特にフェリスさんは復讐に固執し続けているけどそれを実行に移すことができないのでフラストレーションが高いと思うから戦わせた方が活きる気もする。
「嫌よ、あんなの連れてたらあたしがいつかキレるわ。正体を見破れないのは仕方がないけど、魔族だと判明してからも擁護しようとしていたのがねえ」
「そういえばそうだったね。洗脳でもされていたのかな? アキラスの時みたいに」
「男女の仲だったらわからないわよ」
「恋は盲目かあ」
私がそう呟くと夏那ちゃんが『そうそう』と抱き着いてきた。
与えられた状況でなにができるのか? 時には我慢も必要だとリクさんなら言いそうだ。
エルフの村へ到着すると、長のおじいさんや先に戻った人たちが出迎えてくれ、ロディさんが先頭に立ち口を開く。
「戻りました」
「話はウルから聞いている、大変だったな」
「ええ……。勇者様達が気を悪くすると思いますが、また人間の仕業でした」
「うむ……」
ハッキリとそう言うロディさんに苦い顔をする長のおじいさん。タイミング的には最悪だけどちょっと遅かったら村が無くなっていた可能性を考えると最善だったと思う。
「とはいえそれを止めたのも人間ですので、彼らは信用できると言えます」
「そうだな。む、リク殿は?」
「魔族の幹部を倒し、唆された人間の監視をドアールとしています。この後、人間の町へ行くそうです」
「ええ、それで馬車を取りにきました」
「そうか。世界樹はどうされますかな?」
『戻ってきてからになるわね。申し訳ないけど、フェリスをここに連れてきたくないし。磔とかする?』
リーチェちゃんの言葉にその場にいたエルフが苦笑する。
エルフの森は焼かれたけど、ウルという子は無事だったし幹部を倒したのがリクさんということでフェリスさんの処罰は同じ人間の私達に委ねられた。もし死んでいたら報復でやり返していたらしいけど……。
それに顔見知りということで実はロディさん、私達を警戒していたみたいだけどね。そんな話をしてエルフ側は『騙されていたフェリスさん』に対してはこちらに委ねられたので、後は馬車でリクさんのところへ戻るだけとなる。
「ハリソン、ソアラ、ちょっとお出かけよー」
「ごめんね休んでいるところで」
二頭は『大丈夫』といった感じで鼻を鳴らし、そのまま馬車を繋いで移動していると村の入口でロディさんとチェルさん、それと助けたウルという子が待っていた。
「リーチェが居れば戻ってこれますかね?」
「私とロディ、それとウルが出迎えるよ。あんな目にあったのにこの子、リクさんに惚れちゃったみたいで」
「ええ!?」
「俺を簡単に治してくれたし、めっちゃ強いしカッコいいもん! リクさん居ないの?」
目を輝かせて言うウルに私と夏那ちゃんは顔を見合わせて困った顔をし、同時に頷いてからウルへ顔を向けた。
「あー、あのねウルちゃん、リクはこっちの世界の人とはあまり関わらないようにしているから恋人とかは期待しない方がいいわよ」
「うんうん。この世界に残らない可能性が高いし諦めた方がいいよ」
「えー! 俺がエルフだからか?」
「種族って感じじゃないよ。前の世界のこともあるし、味方には優しいからね」
風太君が暗に敵に容赦しないと笑いながら言い、三人ともだんだんリクさんのことが分かってきたと苦笑する私。
実際、告白されて困った顔をするリクさんが頭に浮かぶんだよね。
勝手にこんなこと言っちゃうのはそれ以外にも理由はあるけど――
「うー……あ、後で本人に聞くからな!」
「いいわよ!」
「そ、それじゃ行ってきます」
「風太様も大変だな。リク殿が居るから問題ないと思うが、魔族の最後の言葉が気になる」
「はい」
ロディさんと風太君がそんな会話をしながら門を開けてゆっくり馬車が進み出し、魔物と遭遇することなくリクさんの下へ戻ることができた。
相変わらずフェリスさんは仏頂面で座っているなあ……ちょっとお話してみようかな。
「戻りました!」
「おお、おかえり水樹ちゃん。こっちは平和なもんだったがそっちも大丈夫だったみたいだな」
「はい。それじゃ町まで行きましょうか」
「ああ。ドアール達は戻るか?」
フェリスさんを荷台に乗せながらリクさんが尋ねるとドアールさんが両手をやれやれと上げながら言う。
「だな、人間の町に興味はあるが、なんかあったら困るし戻っとくぜ! 土産に期待する」
「ドアール。お気をつけて、風の精霊様の加護があらんことを」
『はーい』
「リーチェが居るからそこはね。それじゃちょっとこいつを移送してくるわ」
「気を付けてね!」
エルフ三人に見送られて私達はまた森を出て町を目指す。
御者台にはリクさんと風太君。荷台には私と夏那ちゃん、それとリーチェちゃんがそれぞれ座り、これはチャンスだと口を開く。
「フェリスさん、もうちょっと肩の力を抜いたほうがいいと思います。恨みや憎しみは目を曇らせ、よくないことを引き起こすと弓の師匠がいつも言っていました。だから私は弓道で精神を落ち着かせていました」
「あなたみたいな平和そうな子にはわからないでしょうね」
「わかりますよ。私も家が厳しくて辛い目に合っていましたから。目標……この場合フェリスさんは魔族討伐ですけど、それに少しも近づけない現状に苛立つのは特に」
「……」
「水樹は学校を卒業したら結婚よ結婚。しかも変な親父と。嫌なのに逃げられな気持ちはあんたにわかるの? そりゃあ……人が死んだりとかはしていないけど、あんたが好きだった親は人によっては最悪なこともある」
夏那ちゃんが代弁してくれ私は頷いて続ける。
「わかって欲しいのは『自分だけじゃない』ってことなんです。大聖堂の時、魔族を殺さないでおこうとしたのは情報があれば魔王と戦うのに有利かもしれないじゃないですか? 目の前のことだけを潰していくことで遠回りになることはあります。もう少し冷静に考えられればいいと思います』
「……ふん、魔族は皆殺しでいいのよ」
「だーかーらー。魔王の弱点とか拷問すれば吐くかもしれないでしょ!」
『うんうん。あいつら再生するから指を一本ずつ――』
「怖いよリーチェちゃん……」
「……ふん」
私達のやりとりを不快そうな顔で見てからその場で寝転がるフェリスさん。
伝わったかはわからないけど、考えて人の邪魔をするようなことがなくなればいいなと思うばかりだ。
そして、私達が町へ到着すると――
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