154.主張するなら最後まで責任を持つべきだ

 危ういところだったエルフは戦闘員エルフ達と共に集落へ戻り、この場には異世界組とロディ、ドアールだけが残された。もちろん、フェリスに詳しい話を聞くためだ。

 

 「で、あんたは嫌いな魔族と一緒にこんなところへなにしに来たの? 大聖堂から逃げてなにがしたいのかしら?」

 「夏那ちゃんの言う通りです。正直、フェリスさんに興味はないですけど誰かが不利益を被るようなら困るので知っていることは全部喋ってください」

 「おおう……」


 ドアールが重苦しい空気に茶々を入れようとしたがそんなことは無理だ。

 そして鬼の形相の夏那と笑みの中に不穏なものを感じる水樹ちゃんという女性二人の怒りがこっちに伝わってくる。

 同じ女としてこいつの所業は許せないという感じだろう。イリスやティリスもこういう面があったし。


 「……」

 「黙っていても別にいいが婆さんに引き渡すのは変わらないからな?」

 「グ――」

 「グラジールを葬った件に関して抗議は聞かない。情報よりもあいつは生かしておいて危険な存在だからな。最初にお前が邪魔をしたレムニティとは訳が違う。で、魔族を憎んでいるんだからあれでよかっただろ?」

 「くっ……」

 「ですよね。フェリスさんが怒っている理由が分からないんですけど……」


 流石に風太もおかしいと呆れている。

 するとフェリスは俺達を睨みながら口を開く。


 「あの男に唆されたのは確かに私が悪かったわ……まさか魔族の幹部だったなんて……」

 「まあ、あいつは人間を騙すことなんて訳ないからな。それについては仕方がねえよ」

 「そ、それでも大聖堂に現れた時と違っていきなり殺すなんて……」

 「レムニティもグラジールも俺はよく知っているんだ、さっきも言ったがグラジールはヤバいんだよ。お前が心を奪われているのもその一つだし、殺すことに躊躇もない。俺達が来なけりゃエルフはもっとひどい目にあっていたはずだ。特に野郎は顔と姿を変えて逃げていく。地下迷宮で被害が拡大したのはそのせいだ」


 俺が知っている全てを語るとフェリスはなにも言えなくなった。アキラスの時にプラヴァスやヨームが心理的に操られていたがあれと同じで『おかしい』のに『そう感じられなくなる』んだよな。

 それは瞬間的に洗脳はできないものの、長い時間をかけて変えていき、人間をレッサーデビルに変えるのも似たような感じだ。


 「恐ろしいわね……正々堂々としていたレムニティはマシだったんだ」

 「ああ。グラジール以外に後二人、頭が回るヤツがいるがそれは後でいい。で、お前が馬鹿だという前提でもう一度聞くがなにをしに来た?」

 

 再度、俺は後ろ手に縛られて座り込んでいるフェリスと目線を合わせてもう一度尋ねると視線を逸らしながらここまでの経緯を話しだした。


 「……聖女候補から落ちた私が力をつけることはもう無理だと判断したわ。だから前に書庫の文献で知っていたエルフに伝わる魔法を独自に覚えて魔族に対抗しようとしたのよ。グラデルとは近くの町で会ってあいつもエルフに用があるからって一緒に……」

 「まんまと利用されたってわけですね。もし私達が居なかったら捕まっていたエルフさんを人質にして集落に入り込んで一掃……そういう手はずだった」

 「し、知らなかったんだから仕方ないでしょ! ……あぐ!?」


 水樹ちゃんの言葉に激昂するフェリスだがその水樹ちゃんに引っぱたかれて黙り込む羽目になった。


 「勝手なことばかりして人に迷惑ばかりかける……私の兄を見ているみたいで本当に腹が立ちます……! そのくせ自分は悪くないみたいな顔をしているのが!!」

 「異世界人が私の気持ちなんて分からないでしょう! 勇者が魔王を倒さないで元の世界に帰りたいだなんて甘いことを言うしね!」

 「はあ……ホント、怒りを通り越して呆れるわ。どうするリク?」

 「……一度、大聖堂までこいつを送り届けないといけないが……」


 町で会った、という言葉とフェリスがどの程度の期間一緒に居たのか? という部分が気になる。


 「とりあえずこいつが立ち寄った町へ行こう。もう間に合わないかもしれないが、もし町の誰かが魔族になっていたら事態は深刻になるはずだ」

 『世界樹はどうするの?』

 「そっちも大事だが、魔族の対処はしておいた方がいいだろう。見て見ぬふりもできるけど知ったからにはってやつだ。ロディ、悪いが少し出てくる」

 「……ああ、問題ない。が、一つ聞いてもいいだろうか?」

 「どうした?」

 「魔王を倒さずに元の世界に帰りたいというのは……」


 ああ、そうか。俺達は魔王を倒す名目で協力を仰いでいるからさっきの話を聞いたらそうなるかと俺は眉間を指でつまんでから顔を顰める。


 「大丈夫だ。こいつと初めて会った時とは事情が変わっているから、魔王の下へは行く」

 「なんですって……?」

 『さっきからホント余計な事を言うわね!!』

 「あぐ……!?」

 「ナイスよリーチェ」


 流石にリーチェも腹に据えかねたか空中からのドロップキックを鼻先にぶつけ、フェリスは鼻血を噴いた。


 「悪いな、疑心暗鬼にさせて」

 「こちらこそすまない。馬車が必要だろうがどうする?」

 「そうだな……三人で取りに行ってもらえるか?」


 こいつを集落に連れていく必要はないが放置もできない。エルフ達ならまあリスクはないだろうしここは分ける方がいい。


 「オレっちが見ていてもいいけど?」

 「なら俺と一緒に残ってくれ。人間の始末だ、俺達が見ているのが筋だろ」

 「オッケー、ならロディは勇者三人を連れて行ってくれ」

 「分かった。ではこちらへ」

 「それじゃちょっとハリソン達を連れてきますね」


 ロディは頷いて踵を返し風太達が後に続くと、リーチェが俺の頭上に飛んできて首を傾げて聞いてきた。


 『わたしも風太達と行く?』

 「そうしてくれ。こっちは俺が居れば十分だろ」

 『わかった! カナー、わたしも行くー』


 リーチェも飛んでいき、この場には俺とドアール。そしてフェリスだけが残され一気に静かになった。


 「……酷いもんだな。やる気は認めるが手段が悪すぎる」

 「腰抜け勇者様に言われてもね」

 「俺達についてはなんでもいいが、あのまま捕まえているやつが殺されでもしていたらどう責任を取るつもりだったんだ?」

 「……」

 「魔王の島に渡るには船が必要だが、海に住む魔物のおかげでただの船は航行できない。そこでエルフの協力は必要不可欠なんだが、それができなくなっていたらどうしたんだ? ……お前が動くことでエルフと人間の確執は完全に溝ができるところだったんだ」


 そこで頭の後ろに手を組んで様子をみていたドアールが口を開く。


 「リクさんの言う通りだよな……。オレっちはあんたがどうしたいのかは分かるけど、自分の実力ってやつは知っているつもりだ。だから無理はしない。力がない者が下手に手を出して悪手になるなんていくらでもある。できることとできないことを見極めないと……今度は死ぬぜ?」

 「くっ……」


 飄々としているがしっかり考えているなと感心する俺。

 しかしいつから潜り込んでいたか分からないが、大丈夫かね……町は。

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