146.禍根と未来の天秤


 ――エルフの集落



 「ん? おお、ロディ達じゃないか! それに――」

 「エミールを見つけてきたよ」

 「ただいまー! 人間! 人間に会ったよ!」

 

 ロディはリク達と会った後、エミールを連れてすぐに集落へ戻っていた。精霊たちがかく乱しているので人間にはたどり着けないが実はリク達が居る場所からそれほど離れていない。

 リーチェが精霊を追いまわしたので迷わせる間もなく集落へ近づいていたのだ。

 そして本来エミールも精霊達が守ってくれるので魔物と会うことは滅多にないのだがリク達の騒動があったため先のように魔物に見つかっていたのだ。


 「あ、お父さんとお母さん!」


 そこで部屋から消えたエミールを探しに出ていたジエールとクリミナの二人も集落へ戻ってきてエミールを抱きしめた。


 「ああ、良かった無事で……!」

 「お母さんただいまー!」

 「ったく、誰に似ているんだか……ありがとうロディ、チェル、ドーラス」


 ジエールが頭を下げると、チェルが笑顔で手を振ってから口を開く。


 「いえ、それより今から長に会いに行くんですけどジエールさんも一緒にいいですか?」

 「……? なんだなにかあるのか」

 「それも長のところでってことで。人間と会ったんだけど、色々あってさ」

 「人間に?」

 「うん! 犬さんがね、助けてくれたの!」


 クリミナがエミールの言葉を聞いて首を傾げてジエールと顔を見合わせる。だが『助けてくれた』というワードが気になり、なにがあったのかを確認すべく一家そろってロディ達と共に長の下へと向かった。

 

 「む、もう戻ってきたのか? 人間の監視はどうした」

 「それが――」


 ロディはエミールが集落から出ていて魔物に襲われていたことを伝え、それを助けてくれたのが監視するべき人間だったこと、それと目に見える精霊を連れていて『勇者』と言っていることを話す。


 「勇者だと……!? しかし前の戦いで死んでしまったはずだぞ……それに精霊が目に見えるだと?」

 「少しダンディな男の人が一人と若い子が三人って感じでしたね。精霊様はこう、掌に乗るくらいの大きさで空を飛んでいました。風の精霊様も見えているみたいでお話していましたよ」

 「むう……なにか魔法をかけられたりとか……」

 「三人とも見てますからねえ。なかなか可愛い子も居ましたし、嘘だとは思えないですぜ」


 チェルとドーラスが主観で話すのを見て肩眉を下げる長。その様子に気づいたロディが慌てて続きを話し始めた。


 「こほん……それで彼らの目的は世界樹の聖木とのことでした。船を作る際に聖木なら海の魔物に沈められることが無くなるとかで」

 「……となると魔王討伐に出る、ということか?」

 「恐らくは」


 長がなにかを考え始めたところでジエールがロディへ質問を投げかける。


 「エミールを助けてくれたのが人間なのか、礼を言わねばならんが……」

 「ジエールさんにはもうひとつあって、リクという男が『聖女からジエールによろしく言っておいてくれと頼まれた』と」

 「……! そうか……もしかして勇者をまた呼んだ、のか?」

 「メイディ様でしたわね」

 「そうだ。俺は聖女のところで武具を作っていたからな……」

 「一度は恋仲だったんですものね」

 「お母さん?」

 「むくれるな、俺の妻はお前だけだぞクリミナ。もう50年も前の話だ、人間だしすっかり歳を取っているだろう」


 クリミナが頬を膨らませてエミールに頬ずりをすると、苦笑しながらジエールが返す。しかしすぐに真顔になってから言う。


 「……しかしメイディが勇者という人間をこちらに寄越して聖木を手に入れたいということは今回は本気で魔王を討伐できる人物なのかもしれない」

 「どうしてそう言える?」

 「長はここを守っていたので分からないかと思いますが、メイディはエルフを盾にすることを最後まで良しとしない方向で動いていました。勇者が死んで一番糾弾されてもいました。だから勇者召喚はもうしないと言っていて、エルフと確執があることも知っているのにもかかわらず人間を寄越したということは……」

 「ふうむ、今度は四人。魔王を倒せる算段があるとみていい、と?」


 長の言葉に頷くジエールにロディも意見を口にする。


 「私も彼らは信用できそうな気がしています。精霊様を連れているということもそうですけど、エミールを人質にすることも無くすぐに返してくれました。それに聖木を手に入れれば魔族や魔王への牽制になります。それと――」

 「それと?」

 「……世界樹の様子がおかしいのはシャーマンのポリンが言っていましたが、精霊様を通じて理由が分かるかもしれません」

 「なるほどな」


 長からしてみれば『デメリットが無い』話だと顎に手を当てて再び考え始める。人間は忌むべき存在だが勇者なら話は変わってくるか、と。

 魔族はエルフの森へまだ本格的に仕掛けてこないが人間の国が滅びていけばいつかは戦うことになる。そうならないためには勇者へ協力することも必要ではないか?


 「……一度、会ってみるか。エミールを助けてくれた礼をせねばエルフの沽券にかかわるからな。ただ、なにをしてくるか分からん。シャーマンのポリンとミリン、それと戦える者を引き連れてから村の外で顔合わせだ。シャーマンが不吉なことを感じなければ集落まで連れてきて交渉だな。船を作るなら相応の数も必要だろう」

 「そうですね。船ならヴァッフェ帝国でしょうし、距離もあります」

 

 エルフ達がリク達をどう迎えるか話していると、抱っこされていたエミールがぐずりだした。


 「んー! つまんなぁい! 犬さんと遊びたいの! またねって言ったし!」

 「あはは、可愛かったもんねあの子。というかエミールちゃんのおかげで勇者に会えたわけだし、早くわんちゃんと遊べるようにしてあげないと」

 「ああ。だけどことは重大だ。慎重にいこう、顔を知っている私達三人は絶対に行くとして――」


 と、ロディが神妙な顔で話し始め、長が他のエルフを集めてもう一度集会を開くことを決定。程なくして『人間』という微妙な空気の中、リク達を迎えに行くのだった――

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