147.和解とまではいかないが利害の一致はしたようだ

 

 「ファングこっちよ!」

 「わふわふ!!」

 

 エルフ達と出会ってから二夜目が明けた。

 俺達はロディに言われた通りその場で留まりキャンプをしてあいつらがまた来るのを待つ。水樹ちゃんがファングと遊んでいるのを尻目に湯を沸かしていると、スープの準備をした風太が話しかけてきた。


 「二日目になりましたけどエルフ達は帰ってきませんね……」

 「向こうが気になる要素は口にしておいたから時間はかかるかもしれないが何かしら反応はあるだろうぜ。話し合いは絶対に必要だし二、三日は仕方ないと思うぞ」

 「なんの考えも無しにこっちに来られたらそれはそれで僕達が困るってことですか」


 風太の問いに頷きながらスープの具材の入った器へお湯を入れていく。塩を刷り込んだ野菜と鶏肉が浮かび、美味そうなスープの完成。


 『あ、いい匂い~。お腹すいちゃったわ、早く朝食にしようよ』

 「そういえばあんたって精霊なのに食べるわよね。どっかに居る精霊はなにも食べないんでしょ?」

 『そうねえ、カナの後ろにある木に一人とミズキとファングの近くにある茂みでを見ている子が一人いるわよ? でもお腹が空くのは確かにわたしだけかも』


 深く考えていないリーチェが俺のところへ飛んできてスープの器を受け取るとカナの膝で食べ始める。実のところ魔力で動いているため腹が減っているのは気のせいで、ただあいつが食べたいだけなのだ。

 それでも人間と同じ仕草や生活環境をさせることで小さいながらも『同じである』と認識できるので気味悪がられたりしない。

 なんだかんだで人に限らず自分と違うモノは受け入れがたいものなので、あえて食べる、喋る、寝るということは制限していない。まあ、俺が創って俺の真似をしていたのだからそうもなる訳なんだが。



 「エミールちゃんって子を助けたのは間違いなくあたし達だし、なにかしらお礼はあるんじゃない? 水樹ー、ファング、朝ごはんできたわよー」

 「はーい」

 「うぉふうぉふ」

 『あ! ファングのはあっちだから!』


 リーチェの器を嗅ぎにきたファングを追い払い、水樹ちゃんも木で作った椅子に座り朝食と相成った。それぞれスープとパンを手にしたところで、夏那が口を開く。


 「でも実際、聖木を船を造る分もらえると思う? それに世界樹が弱っているみたいだし使えるの?」

 「そこはリーチェ頼りなのとエルフがそこまで入れてくれるかどうかだな。言いえて妙だが腐っても聖木だから使えないってことはないと思うし、とりあえず分けてもらうことが肝心だ」

 「そうですね……魔王を倒すことが出来ればエルフさん達も安心できるでしょうからリクさんが私達を勇者と宣言したのは良かったんだと思います」

 「リーチェにびっくりしていたし、興味はあるんじゃない?」

 『わたしはカナ達の世界で言う『あいどる』……!』

 

 鶏肉を頬張るリーチェがそんなことを口にし、風太が苦笑していると近くで草を踏む音と茂みをかき分ける音が聞こえてきて俺は椅子から立ち上がってから音のする方向へ歩いていく。


 すると――


 「すまない、少し遅くなった」

 「お、帰ってきてくれたか」

 「美味そうな匂いがするなあ」

 「意地汚いわよ」


 エルフのロディやチェル、ドーラスが姿を現した。風太達もすぐに立ち上がって椅子に器を置いてから俺の隣へと移動する。

 

 「うわわ、ほ、本当に人間ですぅ!」

 「ポリン、しゃんとせんか。……お主達が勇者か。ふうむ……」


 さらに背後から可愛らしい銀髪のエルフと結構な歳をしたエルフ、そして武装した奴等が俺達の前にずらりと並んだ。なるほど爺さんと可愛いエルフは重要な人物で十分な警戒をしているってところか? まあ先に護衛を前に出しているからそうなんだろうな。

 俺がそんなことを考えていると護衛エルフの隙間から再び爺さんエルフが口を開く。


 「……私が現エルフの長を務めているグェニラという。異世界の勇者達、エルフの森へようこそ」

 『あら、随分歓迎ムードじゃない?』

 「ええ、精霊様。人間とはわだかまりがあります。が、勇者へ協力することで我等が平和に暮らせるようになるならと思いましてな」

 『リーチェよ、よろしくねグ……グ……グラタンさん!』

 「グェニラだって。それにしても長老さんが出てくるって信用されているってことでいいのかしら?」


 リーチェを頭の上に乗せながら夏那が首を傾げていると、チェルが頬をかきながら申し訳なさそうに言う。


 「あー……ちょっとあなた達を観察していたのよね、実は。見えていないところでなにをやっているかって重要じゃない? 特に人間って外面がいいって長が言うから……」

 「そ、そうなんですね……」

 「ど、どこまで見られていたんだろう……」

 「大丈夫、私とポリンで見ていたから女勇者様のプライバシーは守っているわ」

 「も、申し訳ありません……」


 と、ポリンという女の子エルフは風太を見て顔を赤くしていた。トイレでも見てしまったといったところか。

 しかしそうなってくれるとありがたいと思っていた者の、この二日で大胆な決定をしたもんだ。意外とエルフ達も苦労してんのかね?


 「えっと、私はエルフのシャーマンでポリンと言います。エミールちゃんを助けていただいたことや勇者様であること、そして精霊のリーチェ様を連れているということ……それに加えて普段生活から信用できると判断しました。どうか世界樹の声を聞いてくださいませ」

 「世界樹、そんなにまずいのか? 俺はリクだ」

 「はい、リク様。この数年、こちらが交信をしても反応がないのです。もし病気などしていたらと思うと……」

 『それは辛いわね。このリーチェ様にお任せあれ!』

 「ああ、心強いお言葉です! 解決していただけたらこの身を勇者様に捧げる覚悟!」


 巫女ってやつらしいがそれほどの覚悟をもって臨むくらいの事態か。ならこっちも誠意を見せておく必要があるか、ビジネスの基本ってやつだ。


 「そっちの意図は了解した。リーチェを含めて俺達ができることは多くないかもしれんが聖木は魔王の居る島へ行くのに必ず必要だ。よろしく頼む。感謝の証は……なにか難しい病気やケガをしているヤツは居ないか? 俺の魔法で治せるかもしれない」

 「ふむ、嘘でもきちんとそう言ってくれるか人間の勇者殿。良い、ポリンが問題ないと判断したなら協力はする。犠牲があれば頼むかもしれんが」

 「はい! リク様にも悪くない話だと思います。モテなさそうなので私が嫁になればみんな万々歳」

 「やかましいわ!?」

 「え、身を捧げるってそういう話!?」


 水樹ちゃんが驚いて俺の前に踊り出て叫ぶと今度はチェルが腰に手を当てて指を立ててポリンへ言う。


 「そうよポリン、あなたが好みじゃないかもしれないじゃない。私が変わってもいいわ。ほら、あなたはフウタさんの方がいいんじゃない?」

 「あ、あ、ダメです!」

 「大丈夫なのかしら……?」

 『まあいいんじゃない? さ、集落に行くから片付けましょ!』

 

 ポリンはさておき、なんとか集落へ行けそうだな。


 俺達は馬車を引いてエルフ達の後をついていく。……もちろん警戒は解かずに。

 ま、信用を得られたらできることは全力でやってやるとしようか。

  

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