145.葛藤ってのは種族関係なくもってるもんだ

 エルフ娘のエミールが名残惜しそうにファングを見ながらロディと呼ばれた男の下へ駆けていく。

 そのロディはというと、リーチェと俺達を見ながら判断を決めかねている様子。


 まあこんなにハッキリと見える精霊なんてのはエルフでもお目にかかれないだろうし、前の世界でこいつを見せた時にウェイクというエルフは顔が赤かったり青かったりと忙しい反応を見せていたっけか。


 さて、こいつらの反応はどうかな?


 「せ、精霊が目に見える……巫女じゃないのに……」

 「おいおい、どうなってんだ……こいつら一体……」

 「……」

 「世界樹を治してくれるって!」


 困惑か。

 ということはこっちの世界でも精霊はそういう存在だってことだな。しばらく無言でエルフ側の出方を待っているとロディが口を開く。


 「……精霊を連れているとは……いや、それよりもエミールを助けてくれたようだな。礼を言う」

 「お、話が分かりそうだな。気にしないでくれ、どちらかと言えばリーチェが精霊の声を聞けたおかげでここまで来れたからな」

 『ふふん、そこの風精霊に感謝することね』

 「いや、みえねえけど……」


 ガラの悪そうな顔をしたエルフがリーチェが指さした先を見て頬を掻くのを見て俺が苦笑しながら応対に入ることにした。最初に礼を言えるあたりしっかりした奴等だと思う。


 「俺達はいわゆる異世界人ってやつでな、まあお前達なら勇者と言った方がわかりやすいか」

 「え!?」

 「なんだって……!?」

 「わ、いい反応。いいの? 正体を明かしちゃって。ヴァッフェ帝国の時は言わなかったじゃない」

 「いいんだ。ここは信用してもらうことの方が大事だからな」

 「勇者……」


 それとエルフはここから出ないということもあるから話す相手が少ないのも理由だけどな。人間と仲が悪いエルフがそれを言って信じるかどうか? そもそもエルフ内でしか話をする相手がいないのである。


 「それで俺達は魔王の居る島へ行くため船が欲しいんだが、聖木が無いと海の魔物に対抗できないんだ」

 「なるほど、それでここへ? でも勇者の証みたいなの……ってその精霊様が証拠か」

 「精霊様だってリーチェちゃん」

 『ふふふ、崇めたまえ! あいた!?』

 「調子に乗るなっての。それで村まで案内とは言わないが、聖木を分けてもらえないだろうか?」

 「お、おお……村には行かないの? どうするよロディ」

 「えー! あの子と遊びたいよー」

 「うぉふ」


 ぶっちゃけ村に行かなくても聖木をもらえればいいわけなので交渉としてはこれくらいでいい。迷惑はかけないが魔王を倒すために協力するくらいはいいだろって感じだな。

 水樹ちゃんが抱っこしているファングを指しながら飛び跳ねるエミールを女の子エルフが抱えるとロディが目を瞑って考える。

 ただ、世界樹とやらの元気がないというのは気になる。聖木は恐らく世界樹のことなのでこいつがちゃんと役に立たないとあの牡蠣魔物に対抗できうる素材にならないのではとも思う。

 だから村へと連れて行ってもらえるようにした方がいいかもしれないなと考えるロディに声をかける。


 「このリーチェは俺が創った人口精霊で四属性の力を持っている。精霊と意思疎通も難しくないから世界樹が元気がない原因を聞けるかもしれないぜ」

 「それはありがたいけど……人間……」

 「まあ悪い人間じゃなさそうだし、一旦持ち帰って長老たちへ話してみたら? 聖女様からジエールさんへよろしくと言われていたって言えばわかりそうだけど」

 「いいこと言うわね! 急いでいるけどあたし達も無理やり手に入れたいわけじゃないし」

 「ほら、女の子も居るしいいと思うけど? あ、私はチェルよ」

 「夏那よ、よろしくね」

 

 持ち前のコミュ力で相手の女の子エルフと手を振り合う夏那。それに追従して手を振る水樹ちゃんと風太。

 そしてその様子を見ていたロディは俺に目を向けて言う。


 「……チェルの言う通り一度みんなに話をする。悪いが一日ここで待ってくれるだろうか? 人間はやはり信用するには難しい」

 「ちょっとロディ」

 「いや、いいんだチェルさん。俺達も聖女の婆さんから人間とエルフが戦争でどうなっていたか聞いているんで慎重になるべきだ。ロディ君の判断は正しい」

 「えっと」

 「ああ、俺はリク。で、こっちが風太で水樹ちゃんだ」

 「ふうん。リクさんね、人間にしてはカッコイイわね……」

 「え?」

 「それじゃここで野営でもしていてくれると助かる。行こう」


 ロディはそういって後退する。背後を見せないのは油断していない証拠と言えるだろう。


 「あ、待てよ! オレはドーラスだ、縁がありゃまたな。特にそっちのお嬢さんは」

 「なに言ってんのよ! それじゃあねカナ、リクさん」

 「えー、犬さんはー! うう……またねー」

 「わんわん」

 『わたしのことを話しといてねー! 精霊様のことをー!』


 ものすごく不満そうなエミールは小さい手を俺達に振り、ファングがそれに応えてくれた。リーチェが念を押すが言う通り有効な手なので黙って言わせとく。

 

 とりあえず交渉する足場は手に入れたがエルフ次第か。断られた時のことも考えているのでそこはまあって感じだな。


 「むー」

 「おう、なんだ夏那。むくれて」

 「あのエルフの子、人間嫌いなはずなのにリクをかっこいいって」

 「ああ、エルフは長寿だからな。おっさんの俺のが歳が近いと思ったんじゃないか? 風太達とエミールって同い年だろ、そういうことだ」

 「ぜ、全然分からない……」

 「モテるってことよね?」


 まあそうなんだがそこを言及しても仕方がないので

 『チェルってエルフ年齢だと100歳越えているでしょ、多分。人間だと20歳ちょっとだと思う』

 「年上なんだ……」


 リーチェの説明に水樹ちゃんがそうなんだとびっくりしていた。

 ゲームとかではよく説明があるけどいざ見てみるとそうは感じないよなやっぱり。


 「さ、キャンプの準備をしよう。明日ちゃんと帰ってきてくれるといいけど」

 「風太の言う通りだ。ファングはお手柄だったからいっぱい食えよ」

 「わん♪」

 『わたしはー!?』

 「はいはいお前が一番頑張ってくれたよ。リクエストがあったら聞くぞ」

 『いえーい♪』

 「やったね♪」


 俺の頭上で小躍りをするリーチェと、それに合わせて夏那もはしゃいでいた。

 ま、勝負はここからなんだけどな? 年食ったエルフってのはおおむね頑固だと相場が決まっている。上手く話が進めばいいんだが。

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