144.初顔合わせは予想外のところからきたな

 

 リーチェの案内でハリソンとソアラが森の中を疾走する。

 降りて走ろうかと思ったがここで三人とはぐれそうな気がするのでとりあえずはこのままだが、いよいよとなれば飛び出すことも視野に入れておく。

 打算的で悪いがエルフの子供をここで助けておけば後の展開が非常に楽になるからな。


 「間に合いますかね……」

 「分からん。でも、助けられるものなら助けてやりたいよ」

 「うん! リーチェ、しっかり案内よろしくね!」

 『もちのロンよ!!』


 子供なら尚更親が心配するだろうし、要件のことが無かったとしてもこういう状況なら助けるのは吝かじゃない。どうせ誰も見ていないから全力を出せるのもある。


 「ひゃぁぁ!?」


 俺達が話しながら周囲を全員で見ていたその瞬間、どこかで子供の声が聞こえてきた。


 「む……!」

 「わふーん!」

 「今のは……! あ、ファング!」

 『そこ、右よ!』


 水樹ちゃんが荷台から顔を出して声を上げたのと同時に、俺が叩いた手の音を聞いたファングが飛び出していきリーチェの指示で先行して走っていく。すぐに馬車もドリフト気味に曲がるとでかいトカゲの魔物が尻もちをついている子供の前で舌を出しているのが見えた。あの口なら子供なんて一飲みでいかれるかもしれないくらいでかい。


 「うぉふ!!」

 「シュルル? ……シュッ!?」

 「え?」


 先制したのはファングで、勇敢にもトカゲの側面に嚙みついて気を逸らすことに成功。


 「いいわよファング! なら私が魔法で――」

 「いや、ここでお前の火魔法は危険だ。こういう時は風太か水樹ちゃんがいい。ま、今回は急ぎだ、俺がいく」

 「わ、速っ!?」


 夏那が魔法を使おうとしたのを制して俺が馬車から飛び降りる。流石にこのスピードで降りるのは俺しかできず、一気に接近する術も持っていない。


 「わふわふ……!!」

 「シュルルルル!」

 「犬さんがんばれ!!」


 必死に食らいつくファングを応援する子供の近くへ来たところで剣を抜いてオオトカゲの背中に振り下ろす。遠くからでもでかいと思ったが実際目の前で見てみると小型のドラゴンくらいあるな。


 「そら!」

 「シュッルルル!?」

 「悪いな、俺達と会ったのが運のツキってやつだ。このまま狩らせてもらうぜ」

 

 俺を見たファングが噛みつくのをやめて子供の前に立ちふさがるという勇ましい姿を見せてくれることに頬が緩む。あっちは安心かと俺は剣で首を狙い――


 「フシュルルル……」


 ――一撃で仕留めた。


 「ふう」


 ついでに血抜きをしておくかと地面を魔法でくりぬいてから傷口を穴に向けていると、馬車もここまで到着して三人が降りてくる。


 「さすがリク、楽勝ね!」

 「ファングも頑張ったわね♪」

 「うおん♪」

 「えっと、大丈夫かな?」


 水樹ちゃんがキョトンとしている子供に話しかけると、目の前にいたファングを後ろから抱きしめながら口を開く。


 「うん! 犬さんが助けてくれたから大丈夫! そっちのお兄ちゃんも強かったねえ」

 「わふわふ」

 「お兄さんって年齢じゃ……いや、その耳はエルフか、ならそんなもんかもしれねえな」

 「どういうことです?」


 風太が疑問を投げかけてくるが理由は単純で長寿なエルフは俺達よりも外見年齢と実年齢が人間と異なり、十年くらいは余裕で違うことを説明。


 「えっと、お嬢ちゃんでいいのかな? いくつだい」

 「うん、そうだよ! エミールは今、二十歳!! わたしも強いんだよ!」

 「えっ!? と、年上……」

 「というわけだ。見た目は子供だけどお前達より上だったな。さて、俺達は人間だけど話しても大丈夫かな。お父さんとかお母さんはいないのか?」


 驚く夏那をよそに、ファングを掴んで離さないエミールと目線を合わせてから尋ねてみる。近くに村なりがあって一人で遊びに来れるような場所なら願ったりだ。

 

 「パパとママは家に居るよ! 集落が近くだからね」

 『なら助けたお礼にそこへ連れて行ってくれないかしら? 風の精霊は場所を教えてくれないのよ』

 「ほわー! 見たことがない精霊さんだー! もしかして世界樹さんの精霊様?」

 『世界樹?』


 エミールが目を輝かせてリーチェの方に目を向け飛び上がりながら世界樹のことを口にし、首をかしげると彼女は少し強くファングを抱きしめながら悲し気に言う。


 「うん……少し前からあまりお話しなくなってね。その前から元気がなかったような気がするんだー。わたしエミール。あなたは?」

 『わたしはリーチェよ! わたし達はエミールの村に行きたいんだけど連れて行ってくれない? 聖木が欲しくてエルフ達にお願いに来たんだけど、リクとわたしなら世界樹のことも分かるかもしれないし……どうかしら?」

 「来てくれるの? あ、でも人間さんは長老が怒るかも……」

 「ダメかな? 僕達は一応、勇者だから話せばわかってもらえる――」

 「ううーん、精霊さんが居るなら大丈夫かなあ? 助けてもらったし」


 エミールが可愛くファングに頬ずりをしながら独り言を呟く。後をつけるのは避けたい、そう思っていた時に近くの茂みに気配を感じて俺は立ち上がってそちらに視線を向けて口を開く。


 「……そこに誰かいるな? エルフか? 数は三人ってとこだな出てきな」

 「そういえば気配が増えていますね」


 水樹ちゃんが俺と同じ方向へ視線を向けると、木の上と茂みから三人の人影が出てきた。その姿を見て夏那が少し嬉しそうな声色で一言。


 「おっと、大きなエルフさんが出てきたわね。こっちの承認が必要かしら?」

 「……」

 「だんまりかい? エミールがこっちに居るから攻撃しにくいって顔だな。エミール、ファングを返してくれ」

 「えー! 犬さんと遊びたいー」

 「うおふ」

 「向こうの兄ちゃんたちが怖い顔をしているんでな」


 俺がエミールの背後を顎で指すと、振り返った彼女がパッと明るい顔で手を振る。その隙にファングが抜け出して水樹ちゃんのところへと走っていった。


 「ロディだー! 怠け者のドーラスも!」

 「私も居るわよ。さ、こっちに来なさい」


 警戒しているな……。

 装備もしっかりしているが、エミールのことは予想外って感じか? もしかすると俺達に見つからずに監視する予定だったのかもしれない。


 さて、どうするか。少なくともエミールを助けたのを見てくれていたなら話はしやすいが――


 「ねえねえチェル。リーチェちゃんとこっちのリクにいちゃんが世界樹を診てくれるって!」

 『よろしくー。精霊のリーチェよ』

 「……!? せ、精霊!?」

 「こんなにハッキリ見えるなんて……人間と一緒の精霊というのも初めて見るわ……」

 「一応、長老に話をしておいたほうがいいんじゃねえか、こりゃ……?」

 「むう……」

 

 リーチェを見てから三人の態度に変化があった。精霊は確かに不確かな存在だからここまではっきり喋るリーチェは珍しいのだろう。


 「お願いです、私達はどうしても聖木が必要でここまで来ました。どうか分けてもらえないでしょうか」

 「君は……やはり少し……」

 「ん? なんだ? それと聖女の婆さんからジエールによろしくと言付けももらっている」

 「パパ?」

 「え? パパ?」

 「うん、ジエールってエミールのパパの名前だよ!」


 なんとそうらしい。

 それも驚きだがロディってやつが水樹ちゃんを見る目が少し違う気がするな。するとそのロディが口を開く――

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