143.エルフの集落
――エルフの集落
「人間か……」
「ええ、南西と北西それぞれからこちらに入り込もうとしているようです」
「男女のペアはともかく、馬車に乗った四人組の方が気になりますな。精霊と交信をしていたようですし」
「それだ。下位の精霊でも人間には見えないはずだがどこにいるのかわかっていたのだろう?」
リク達を観察していた男が集落へ戻り報告を行っていた。
フェリスが幾度となく挑戦していたため人間が侵入しようとしていることは知っていたので集められたエルフたちは動揺することなく冷静に話ができている。
しかしフェリスとは違った勢力であるリク達が不可解だと口々に言う。
エルフたちがそれぞれ憶測や迎え撃とうなどというようなことを話し出して周囲にどよめきが起こったので一番奥に座る年老いたエルフが片手を上げて制する。
「聞けば聖木を欲しているという話だったな。ふむ……ひとまず様子見といこう。協力を受けて裏切られたことは記憶に新しい。どうせロクなことでもあるまい。ロディは数人若いのを連れて警戒にあたれ。こちらから姿を見せてはならんぞ」
「承知いたしました長老。しかし、あの中に少し気配が違う人間が居たのが気になるのです」
「ほう」
「弓を使っていた女でしたが、他の三人より聖なる感じが……」
監視していた男、ロディが水樹のことについてそう伝えると、横から別のエルフがからかうように口を開く。
「おいおい、人間の女に恋でもしたってか? やめとけやめとけ、どうせ先に死んじまうんだ人間はよう」
「……そういうんじゃない、ドーラス。もしかすると世界樹を……」
「どちらにしても人間を信用するつもりはこちらにない。集落に入られないようにだけ気を付けるんだ、いいな?」
「わかりました。では準備をして警戒を強めます、念のため他の者は集落から出ないようにした方がいいかと、狩猟者が採取も受け持つローテーションを組んだ方がいいかもしれません」
「うむ、そうだな。通達するとしよう」
エルフの『集落』とは言うものの外の世界に出ている者は数割しかおらず、殆ど森に住んでいるため規模はかなり大きい。森自体も深く広いのであちこちにエルフの住処は点在しているのだ。
しかしすべてのエルフを束ねる長がおり、世界樹のあるこの集落が一番の規模を誇っている。
聖木を手に入れるため、リク達が目指すべきは森の中心ともいうべき場所がここだ。
そんな
「では、ウラとニケは男女ペアを頼む。俺とドーラス、それとチェルは四人組の方に行く」
「はあ? 俺もかよ!」
「軽口叩いたバツだ。まあ、小さいころからの友人であるお前達二人なら俺の言っていることも分かるだろうと言うのもある」
「俺も見てみたかったなあ」
「後で交代してくれよ? んじゃ行ってくるぜ」
ロディの言葉にウラとニケは肩を竦めて笑いながら装備を整えて先に出ていき、それを見送りながら女性のエルフであるチェルが矢を腰に下げてから口を開く。
「それにしてもロディがあんなこと言うなんて驚いたわ。女の子に興味ないって感じなのに」
「そんなことはないが……」
「まあ、見に行ってみようぜ? お前も男を見て好きになったりするんじゃねえぞチェル」
「そりゃあんたでしょうがドーラス。ってか聖なる感じってもしかすると聖女なんじゃない?」
「どうかな。外の世界の情報が無いからそうかもしれない……」
ロディが森の方へ目を向け、すぐにどこからでも目立ちそうな大木に視線を合わせた。そこでチェルが悲し気な表情で同じく大木を見ながら言う。
「……なんだか元気がないよね世界樹。どうしちゃったのかしら」
「シャーマンのポリンも上位精霊の声も聞こえないってことらしいしな。いよいよ森も危ないのかねえ……」
「やめてよドーラス……!」
「でも人間の国を落とされたら魔族の標的はこっちに移る。敵対しないと言っても聞かないだろう、その前に力をつけるんだ」
ロディが弓と剣をつけてから歩き出すと二人も頷いて後に続く。
魔族が現れて五十年という月日が流れたが、あまり子供が生まれないエルフ達は魔族が本気になったらいつ全滅してもおかしくないと鍛えることはおろそかにしていない。
だが、いつそうなるか分からない恐怖は年を取ったものほど持っていたりする。
そして彼らはリク達の監視へと向かう。
そんな中、集会に出ていたエルフ達は手分けしてあちこちの家屋へと伝令をするため回っていた。
「というわけで、村の外には出ないようにしてくれ。人間がここまでたどり着けるとは思えないが、外でばったりってのはあるからな」
「あ、わかりました。武器ももう少し作った方がいいかもしれませんねえ。ねえ、あなた」
「……そうだな」
「ジエールさんも鉱石を採りに行く時は複数人でな。まあ逆方向だから大丈夫だと思うけど」
「ああ、分かった」
目つきの鋭く、短髪の無精ひげを生やしたエルフが玄関先で小さく頷き妻と共にリビングへ戻っていき、着席する。
「怖いわねえ、人間がなにしに来たのかしら」
「さあな。また協力してくれとかそんなんだろう」
「だとしたら今さらよねえ……私達の数が減ったのもあの戦いのせいだし、エルフを盾に逃走するなんて馬鹿なことをしてくれちゃったものねえ」
「人間が全部というわけではないが、あの事件はある意味人間の本性が見れた気がするな。とりあえず武具はいざという時のため揃えておこう。そうだクリミナ、エミールにも外に出ないよう言い含めておかねば」
「そうね。エミール、こちらにいらっしゃい! お話があるの」
妻のクリミナが子供の名前を呼んでみるが――
「あら? 寝ているのかしら?」
「工房かもしれん、俺はそっちを見てくる」
「それじゃ部屋を見てくるわ」
ジエールとクリミナの二人がそれぞれ席を立ったのだが――
◆ ◇ ◆
「どう、リーチェ?」
『ううーん……駄目ね、木陰からこっちを見てくる子は多いんだけど警戒しているわね』
「ダメかあ。っと、ここもさっき通ったところですね」
馬車を進めつつリーチェに精霊を探知してもらうが耳を傾けてくれる者はいないらしい。だが、興味はあるというような感じらしい。
あれから魔物を倒して精霊を追うとリーチェが視認できる個体が現れたのだが遠巻きに見るだけでこちらに近づいては来ない。
結構な時間を消費しているがどうも進んでいる感じはしない。
『ムキーッ! ちょっとこっちこいコラぁ!』
「ダ、ダメだよリーチェちゃん、煽ったら本当にみんな帰っちゃうよ!?」
『ええい、離せミズキここは実力行使で……』
「こういうところはリクに似ているって思うわね」
「ええー……俺、こんなんか?」
「ほら、本気で斬りかかったりすると……」
腑に落ちないことを風太が苦笑しながら言う。
とりあえず夏那が掴まえて拘束してくれたところでふとリーチェが真顔で顔を上げる。
『え? なに? ……あっちで子供が魔物に? ちょ、待ちなさいって!』
「どうした?」
『なんか魔物に襲われているって! ハリソン、ソアラあっち!』
夏那の手を逃れたリーチェは慌ててペシペシと馬たちの頭を叩きながら声を出していた。
子供ねえ……エルフの集落がどのあたりにあるのか分からないが、ここからならそれなりに遠いはず。子供が歩ける距離なんてそんなにあるとは思えない……間に合ってくれよ……!
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