第352話「病棟のベットの上」


試験会場の最寄駅から電車に乗り、自宅近くの駅で下車。


そこから自宅方向へは向かわず、病院方向へ無心で走り続ける。


詳しいことは聞かされていないが、岩船先生が倒れて入院したという情報だけは確かなこと。


それと、電話越しに岩船先生とも会話をしている。


思っているほど危篤な状態ではないのだろうけど、それでも自然と足が前に出る。


病院に着くと、そこには岩船先生の従兄弟である友奈の姿があった。



「走ってきたの?」



息を切らしている姿を見ると、そんな言葉をかけてくる。


真冬なので、汗はほとんどない。


コートを手にかけ、薄着の状態で走ったからそんなものだ。


しかし、身体は確実に火照っている。



「ま、まぁ・・・」


「言ったと思うけど、そんなに深刻な状況じゃないからね?」


「そうみたいですね」



友奈の落ち着きよう。


そして、いつも通りの雰囲気。



「ついてきて」



そう言う友奈の後ろを、呼吸を整えながらついていく。


入院病棟の3階。


長い通路の奥にある扉を、4回ほど素早くノックする。


扉を開けると、友奈が先導して中に入る。


それに続く。



「あぁ・・・心配かけたな」



病室のベッドには、点滴の管が何本もつながっている岩船先生の姿。



「あ、えっと・・・大丈夫なんですか?」


「まぁな。それより、入試はどうだった?」


「それなりには」


「そんなに心配しなくても大丈夫だ。手ごたえのない奴に限って、合格してたりするものだから」



そんなものでしょうか。


と、ため息混じりに言う。


会話がひと段落したのを見計らって、背後にいた友奈が声をかける。



「ちょっといいか?」


「あ、はい」


「じゃ、佳奈美ちゃん。ちょっと借りてくね?」


「あぁ」



無機質な返事をした岩船先生。


彼女の視線は、窓の外を眺めていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る