第338話「二人で話す夜」


帰宅して、いつものように自室へ向かう。


すると、頬を膨らませた蒼がいた。



「ただいま」


「何してたの?」



拗ねたような口調。



「ちょっと、散歩でも」


「意味わかんない」


「気分転換」


「この時間はいつも勉強してたじゃん」


「まぁ・・・たまにはいいかなって」


「気が緩んでるんじゃない?」


「そんなことないよ」


「今はそう思ってても、これが続けば致命傷よ」


「心配してくれてるんだ。ありがと」


「な、なによ・・・急に」



拗ねた顔が、いっきに照れた顔に。


でも実際、気にかけてくれてるのはありがたい。


ここまで勉強を頑張ってやれるのも、蒼の存在があってこそだからな。



「ところでさ、蒼って最近なんかある?」


「ん? なんかって?」



最初は自然な流れでこの話題に入ろうと思った。


しかし、そもそもコミュ力のない人間に、誘導尋問などできるはずがない。


結果、唐突で不自然な感じになってしまった。


蒼も不思議そうな反応。



「えっと・・・ほら、部活やめてから蒼と学校で会うこともなくなったし・・・最近どうしてるかなぁって」


「別に、どうもしてないけど」



うまいようにリカバリーをしようとしたが、蒼の反応は相変わらず。


警戒しているというか、不思議がっているというか。


とにかく、ここからの運びが重要だろう。



「そう? 前はクラスで居場所がないとか言ってたけど・・・今は大丈夫そ?」


「あー・・・うん、最近は仲のいい人いるし」


「前に言ってた人?」


「うん。めっちゃ優しいよ」


「そうなんだ。それ、どんな人?」


「めっちゃ興味持つじゃん」


「まぁな。ちょっと気になって」


「安心して。女の子だから」


「それは知ってる」


「あれ? 女の子って話してたっけ?」


「あー、うん。たしか」



もちろん話されていない。


でも、こちら目線だと、蒼と仲のいい人は海老名明音って知っているわけであって。


俺と明音で関りがあること、どうして秘密にしておかなければならないのだろうか。



「浮気しないでくださいね?」



不安とはかけ離れた表情で、蒼はそう言う。


ほとんど冗談みたいな感じ。


そこから察するに、蒼と明音はそれなりに仲が良いのだろう。



「その子と、、、ってこと?」


「もちろん」


「しないよ。大丈夫」


「ならいいんですけど」


「浮気するように思える?」


「正直、先輩が本当に私のこと好きでいてくれてるのか・・・不安です」



その問いに対して、「好きだ!」って断言することは容易なことだ。


だけど、真面目に答えるとするなら、分からないが最も相応しい。


なぜなら、蒼が言葉通りに不安そうに発言したその文章は、本当にその通りだから。


本当に蒼のことが好きなのか、分からない。


不安で自信がない。



「大丈夫。好きだから」


「それ、言っててくすぐったくない?」


「君が言わせたんだろ」


「あはは」



それからうまいように話題を逸らされ、暗い話は終わった。


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