第335話「見知らぬ少女の友人」


明音に話しかけられて、ちょうど1週間が経った。



「あ、村上さん」



また、1週間前と同じ下駄箱の少し手前で話しかけられる。



「ど、どうも」


「この前はすみません。今日って、お時間ありますか?」



あるようでないような。


一応、帰ったら受験勉強をするという予定はある。


でも、明音は今日含めて2回も話しかけてきている。


よほど、俺に話しておきたいことがあるのだろうか。


そう思ったので、明音の質問にイエスと答える。


すると明音は、別の場所で話がしたいと言う。


どこで話そうと構わないので、黙って明音についていく。


やってきたのは竹林に囲まれている神社。


社の裏側。


ちょうどいい高さの石垣に腰かけて、木製の柱に寄りかかる。


並んで座ると、お互いの距離は案外近い。


それを意識すると、多分気持ち悪いと思われるのだろう。


平静さを装い、彼女に場の空気を合わせる。



「すみません、こんなところで」


「大丈夫。それより海老名さん、どうしてこんなところまで・・・」


「明音で大丈夫ですよ。ちょっと、人目が気になる性分ですので」


「それはちょっと分かるかも」



俺も人の目は気にするタチだからな。



「それで、話って」



前置きとかそういうのはよく分からない。


なので、さっそく本題に入ってもらう。



「はい・・・村上さんって、蒼ちゃんと一緒に暮らしてますよね」



どんな話をするのかと思えば・・・。


出てきたのは、予想外の名前だった。



「えと、だとしたら、なんですか?」



事情が分からないので、警戒心は強めに。


世の中、いい人ばかりではないから。


特に蒼は、クラスでも孤立している立場。


要するに、ここで話題が上がる時点でちょっとおかしいと思うべきなのだ。



「私、蒼ちゃんが心配で」


「どう?」


「村上さんは、学校にいる時の蒼ちゃんがどんな感じなのかご存じですか?」



ご存じかと言われても。


蒼とは学年が違う。


一つ下の後輩だ。


だから、学校で会うことはほぼない。



「存じませんが」


「ですよね。だと思いました」


「それで?」


「お願いです。蒼ちゃんの支えになってください」


「ごめん、話が全く見えないんですけど」


「そ、そうですよね・・・でも、蒼ちゃんが唯一信頼している人が、村上さんなんで」


「そう言われても・・・」



支えになってくださいと一言で言われても・・・って感じだ。


そもそも、蒼は何かに悩んでいるのか?


そして、彼女と蒼の関係は?


そういえば、2年生になってから仲のいい人ができたと言っていた気がする。


それがいま目の前にいる人、明音だとするなら・・・。


どのみち分からないことだらけだが、この件は蒼に話してみれば解決するだろう。



「あ、それとなんですけど、この件は、蒼ちゃんには内緒でいてほしいんですよ」


「はへ?」


「だから、ご内密に!」


「どうして?」


「蒼ちゃん、村上さんには迷惑をかけたくないって言ってたんです。元気なフリをしてるんです」



蒼はまた仮面をかぶってるのか。



「お願いです村上さん。協力してください」


「なにを?」


「色々です」



協力することは良い。


蒼のことなら、俺も喜んで協力する。


問題は、この海老名明音という人間を、信用していいのかどうか・・・。

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