第331話「夕焼けの帰り道」
学校に行って、帰れば勉強。
やることがルーティン化すると、日々に刺激がなくなる。
毎日がつまらないと、その時は思う。
時間の進みが遅いと、その時は思う。
だけど、時間というのは気が付けば進んでいるもの。
特に、毎日決まったことしかやらないと、それが顕著に出る。
「終わっちゃったね」
夕焼け空。
黄金色の背景に、蒼の姿が写し出される。
最近は、日が短くなったと感じる9月末。
学校からの帰り道に、蒼がそんなことを呟く。
「まぁ、そうだな」
「案外あっさりしてたよね」
「そんなもんでしょ」
終わりというのは、あっさりしてる方が気が楽なのだろう。
9月末ということで、3年生は部活が引退となる。
天文部も例外ではなく、友彦と匠馬の二人が引退となった。
今日は、その最後の部活の日だった。
いずれこの日が来るというのは、分かっていたことだ。
だけど、今日という日は案外すぐに来てしまった。
天文部にはそれなりの思い出があるが、顧問が夕凪先生になってからは、これといって印象に残るものはない。
夕凪先生が悪いというわけではないが、彼女が顧問になってからは、良くも悪くも部活動って感じになってしまった。
人が変わればやり方も変わる。
だから、岩船先生のようなやり方でなくなるのは当たり前のことだ。
「これからあの子と二人か・・・」
蒼がため息交じりに口にする。
あの子というのは、海老名歩夢のことだ。
彼女は1年生。
3年生が引退した天文部は、1年生の歩夢と2年生の蒼の二人しかいない。
「そんなに嫌か? 念願だったんじゃないの?」
「なにが?」
「同じ趣味を持つ人」
海老名が来る前の天文部は、星に興味のある人がいなかった。
岩船先生はそうだったが、蒼とは教師と生徒という関係。
思うように距離は縮まらず、蒼としては、星に興味のある生徒が入部してほしかった。
そんな中、入学してきた海老名が入部。
彼女は蒼のお望み通り、星に興味のある人だったわけだが・・・。
「なんか・・・仲良くできる気がしない」
とのこと。
「どうして?」
「わかんない・・・」
「蒼的には、どうなの? 海老名さんのこと」
「別に・・・」
「別にって」
「何というか、私って人と仲良くするの苦手かもしれない」
「う、うーん・・・」
そんなことないよ!
って、反論できない自分がいた。
同じ星に興味のある人間として、岩船先生がいる。
しかし蒼は、岩船先生とも仲は良くなかった。
まぁでも、岩船先生とは教師と生徒で、そこには確実に見えない壁が存在する。
だから、仕方がないって言うことができた。
だけど、海老名は違う。
1年生と2年生ということで、歳は違えどほぼ同い年みたいなものだ。
海老名の方は、先輩との関りが苦手な人ではなさそう。
蒼の方は、上級生ということで、そこまで気を遣う必要はないはずだ。
強いて言うなら、蒼は確実に年下は苦手ということ。
「一度、しっかり話してみたら?」
「しっかり話すって?」
「蒼と海老名さん。話せば仲良くなるかもよ?」
「なに話すの?」
「いやまぁ・・・それは、天文の話とか」
「スケールがでかいわね」
「いつも通りの蒼で行けばいいと思うよ。普通に話しかければ、ちゃんと会話してくれると思うけど」
「えぇ・・・」
「そうやって拒絶してると、何も変わらないよ?」
「それ、先輩が言いますか?」
「う、うぅ」
ごもっともです。
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