第328話「いつも、いつまでも」
村上友彦と三永瀬蒼。
二人の関係は、ほんのちょっと複雑。
だけど、その複雑な経緯を、セシルはあっさりと飲み込んでくれた。
「なるほどね」
「今ので理解したのか?」
「何となく。友彦がややこしい関係の女の子に恋してるってことは分かったよ」
恋してる・・・のだろうか。
でも、関係上は恋人。
その表現は、間違っているようで間違っていない。
「友彦は、その女の子を幸せにしたいと思ってるの?」
「思ってる・・・と、思う」
「思う、ってのは?」
「わからないんだ。その人のことが好きなのかも、その人と一緒にいたいのかも」
いつの日か、蒼のことを恋人と受け入れて、覚悟を決めた日があった。
でも、結局は疑心暗鬼だ。
なぜ、蒼のことを信じることができないんだろう。
「恋人なんでしょ?」
「うん。でも、経緯は話した通りで・・・」
「でもさ、ずっと一緒にいるんでしょ?」
「うん」
「それで、嫌だなって思ったことは?」
「たまにある」
「いつもじゃなくて?」
「たまに・・・」
「なら、大丈夫だよ」
安心したような、ほっとしたような表情になるセシル。
何が大丈夫なのか、俺にはよく分からなかった。
複雑そうな顔をしている俺を見かねたセシルは、続けて説明してくれた。
「ずっと一緒にいれば、相手の良いところも悪いところも見えてくる。距離が近いが故、距離を置きたくなることだってある。多分、そういうものだと思う。それが恋人同士であろうと、単なる友達であろうと」
「それが、人間関係ってこと?」
「私の考えではそうだよ。人と人は他人だからね。合わないところだってあるし、嫌だと思うことだってあると思うよ」
蒼との時間は、基本は楽しいと思っている。
だけど時に、そうでないときもある。
でもそれは、俺と蒼は違う人間で、他人だから仕方のないこと。
「いつも、いつまでもは、他人であるなら無理なことよ。友彦はそこを勘違いしてる」
「いつも、いつまでも・・・?」
「いつも一緒にいたい、いつまでも楽しいと思いたい・・・みたいな」
「それでいいのかな」
「それでいいんだよ。そして友彦は、その子を幸せにしたいって、ちゃんと思ってる」
「思ってるか、分からないよ」
「でも、私にそういう相談をしてきた」
「わからないから、相談したんだけど」
「ううん、相談してきた時点で、友彦はその子のことが好きで、その子のことを幸せにしたいと思ってる」
「ほんとかな・・・」
「帰って、その子のことを抱きしめてみな? きっと暖かくて、ドキドキして、幸せだなって、そう思えるはずだよ」
夕暮れの駅前。セシルがその言葉を口にしたあと、ふと時計を見る。
電車の到着時刻まで、あとわずか。
セシルはスッと立ち上がる。
「また来るね」
手を振り、彼女はそそくさと改札の方へ行ってしまった。
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