第324話「懐かしの光景」


セシルのご希望で、学校の部室にやってきた。


今は夏休みだが、部室は夕凪先生の厚意によっていつでも開放されている。



「懐かしい」



セシルが呟く。


彼女からしてみれば、1年半ぶりの光景。


そんなにも長い時間が経っているわけではないが、俺ら若い世代の人間からしてみれば、1年でも体感はそこそこ長い。



「友彦、今はひとり?」


「部活のことか?」


「うん」


「部員いるよ」


「あ、そうなんだ。ちゃんと馴染めてる?」


「おい、それはどういうことだ」



セシルに心配されるとはな・・・。


とはいえ、人間関係が苦手なのは事実である。


しかし、1年生のときに比べれば、幾分マシになったんじゃないかって思っている。


人と関わること。


それが億劫に感じることが少なくなっている。


その第一歩が、セシルだったのかもしれない。



「大丈夫。ボチボチ頑張ってる」


「成長したんだね、友彦」


「だれ目線だよ」


「そう言えば、岩船先生はいるの?」



会話の流れで、セシルがそんなことを呟く。


セシルと岩船先生は、天文部で関りが大きい。


一緒に天体観測をしたり、旅行に行ったりもした。


が、岩船先生が教師を辞めたことは、彼女は知らない。



「岩船先生は、今はいないよ」


「そうなの?」


「うん、学校の先生、辞めちゃったから」


「そうなんだ」



教師を辞めたことを告げると、あっさりと受け入れるセシル。


セシルが暮らしているヨーロッパ諸国では、職を転々とする人はそう珍しくないと耳にしたことがある。


だから、自然な感じで受け入れることができたのだろうか。


それとも、辞めた理由が気になっているのは、俺だけなのだろうか・・・。


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