第323話「夏の来客者」


夏休みがはじまり、もうそろそろ2週間。


カレンダーは8月に変わり、蒸し暑い日々が続く。


ここまで毎日勉強漬け。


朝に学校に向かい、夕凪先生の厚意で開放してくれている部室で勉強。


夕方に家に帰れば、また勉強。そんな日々を送っていた。


が、今日はちょっとそのルーティンから外れる。


昼頃に、駅前へ向かう。


日差しを避けるように、駅舎の改札前で待機。



「やぁ、元気かい?」



10分ほど待つと、待ち合わせ相手から声を掛けられる。


ポニーテールの黒い髪。


平たい胸に、決して高い身長ではないのに、錯覚で高く見えてしまうほどに良いスタイル。


久しぶりに見るその姿、久しぶりに聞くその声は、セシル・ド・モンクティエ。



「久しぶりだな」


「そうだね、友彦!」



1年半ぶりだろうか。


今日は、セシルが日本に遊ぶに来る日。


家族旅行で来日していたようだが、今日だけ1日自由に行動できる日なんだとか。


そんな貴重な一日を使って、わざわざ会いに来てくれた。



「友彦、変わらないね」


「変わってたまるか」


「でも、ちょっとだけ違うような気もするよ」


「どこら辺が?」


「前より、活き活きしてる」


「魚じゃないんだから・・・」


「褒めてるんだよ?」


「はいはい。セシルはなんかあった?」


「特に。何にもないよ」


「今は、アイルランドだっけ?」


「うん」


「どう? 暮らしは」


「英語の国だから、言葉には困らないよ」


「アイルランド語ってなかったっけ?」


「あるけど、ほぼ使われてないというか、普通に英語の国」


「そうなんだ」


「そんなことより友彦。学校行かない?」


「学校?」


「久しぶりに行ってみたい」



妙なところに行きたがるんだな。


まぁ今日の主役はセシルだから、仰せの通りに、学校へ向かうことにしよう。


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